(演習)ペルソナの定義
概要
- 日程: Day 1 / セッション7
- 時間: 13:30-14:00
- 形式: 演習
- ゴール: 開発テーマの利用者を想定し、名前・属性・課題を含むペルソナを1人分定義できる
- 学習形式: AIディスカッション
導入(5分)
🗣️ 要約
「誰にとっての価値か」が曖昧なままだと、チーム内で価値の判断がばらつく ペルソナとは、名前・性格を持つ架空の1人の利用者として描いた人物像 今日作るペルソナは、以後の分類演習で判断基準として繰り返し使う
先ほどのセッションで、「情報の価値は誰かの視点によって決まる」という話をしました。ところで、その「誰か」って、具体的にイメージできていますか?
「若い人向け」「一般的なユーザー」といった曖昧な対象のままでは、価値の判断がチームの中でバラバラになってしまいます。今日はその「誰か」を、名前も性格も持った1人の人物として描き出します。
このセッションが終わる頃には、皆さんのチームに「架空だけど、まるで実在するかのような1人の利用者」が生まれています。そして、このあと午後の分類演習で、皆さんは何度も「この人ならどう感じるか?」とその人に問いかけながら作業を進めることになります。
本編(20-40分)
🗣️ 要約
ペルソナとは、チームで合意した「共通の物差し」となる象徴的な人物像のこと ペルソナが変わると、同じ機能・同じデータでも「価値」の中身が変わる
1. ペルソナとは何か
🗣️ 要約
ペルソナは実データの平均ではなく、チームが合意した「共通の物差し」となる役柄 ターゲット層のような集団ではなく、「顔が思い浮かぶ」1人に絞ることで議論の発散を防ぐ 属性を並べるだけでなく、「課題」まで描けて初めてペルソナとして機能する
ペルソナとは、「開発が終わってリリースされたとき、どんな人がそれを利用するのか」を想定して描き出した、象徴的な人物像のことです。
ここで大事なポイントがあります。ペルソナは、実在する誰か1人のインタビュー記録でも、大規模なアンケート調査の統計データでもありません。チームのメンバーが「きっとこんな人が使うだろう」と合意した、いわば共通の物差しです。
これは、演劇でいう「配役」に似ています。俳優は実在の人物そのものではありませんが、脚本上の役柄として一貫した人格を持っています。ペルソナも同じで、実在しなくても、チームの中で一貫して振る舞う「役柄」として機能すれば十分なのです。
ここで少し考えてみてください。もし「20代〜40代の幅広い層」をターゲットとしたら、何が起きるでしょうか。おそらく、機能を追加するたびに「20代ならこう」「40代ならこう」と意見が割れ、結局全員に中途半端な機能になってしまいます。ペルソナを1人に絞ることで、この「誰に向けた機能か」の議論に決着をつけられるようになります。
具体例と非具体例
たとえば「一人暮らしを始めたばかりの大学2年生、田中さん(20歳)。自炊はほぼ未経験で、レシピアプリを使うが手順が多いと挫折しがち」は立派なペルソナに該当します。名前・属性・具体的な課題が揃っているからです。
一方、「料理が好きな人」はペルソナに該当しません。なぜなら、これは属性の一部を示しているだけで、その人がどんな課題を抱え、どんな場面でシステムを使うのかが見えないからです。ペルソナには「顔が思い浮かぶかどうか」というテストが使えます。田中さんの例なら、皆さんの頭の中に具体的な人物像が浮かんだのではないでしょうか。
ここがポイント
特に注意してほしいのは、ペルソナ作成を「マーケティングのターゲット層設定」と混同してしまうことです。ターゲット層は「20代女性」のような集団の切り出しですが、ペルソナは「その中の象徴的な1人」を具体的に描くものです。よくある間違いとして、属性を並べただけで満足してしまう(例:「30代、会社員、東京在住」で終わる)ケースがありますが、正しくは、その人が抱えている課題まで踏み込んで初めてペルソナとして機能します。課題がなければ、「なぜこの機能が必要か」を判断する材料になりません。
コラム
ペルソナという言葉は、もともと古代ギリシャ・ローマ演劇で役者が使った「仮面」を意味するラテン語 persona に由来しています。仮面をかぶることでその役柄になりきる、という発想が、そのまま「その人になりきって設計を考える」という現代のペルソナ手法に受け継がれているのは、なかなか面白い話です。
余談ですが、Webデザインの世界でペルソナ手法を広めた立役者の1人であるアラン・クーパーは、著書の中で「エルヴィス(架空の営業担当者)」という具体的な名前付きのペルソナを使ってソフトウェア設計を説明したことで知られています。名前を付けると、なぜか会議室で「エルヴィスなら怒るよ、この画面」といった発言が自然に出てくるようになる、というのは多くの現場で報告されている実感だそうです。名前の力、侮れません。
2. ペルソナが機能を左右する
🗣️ 要約
同じ機能・同じデータでも、ペルソナが変われば「価値」の中身が変わる(例:経理知識のある会社員/家計簿初心者の大学生) ペルソナを先に固定することで、以後のあらゆる判断基準がぶれなくなる
ペルソナを定義すると、その後のあらゆる判断が変わってきます。情報の「価値」「可視性」「多義性」も、すべてこのペルソナを基準に判断することになります。
たとえば家計簿アプリを考えてみましょう。ペルソナが「経理の知識がある会社員」であれば、複式簿記のような専門的な表示が「価値のある情報」になります。しかし、ペルソナが「家計簿をつけたことがない大学生」であれば、同じ複式簿記の表示はむしろノイズであり、シンプルな「今月あといくら使えるか」の表示のほうが価値が高くなります。
同じ機能・同じデータでも、ペルソナが変われば「価値」の中身が変わる。これが、ペルソナを最初に固定することの意味です。
ここまでで、ペルソナがなぜ必要なのか、イメージできましたか?
💬 AIに聞いてみよう
🗣️ 要約
疑問があれば、開発テーマに合わせた質問例をそのままAIに聞いてみるとよい
ここまでの内容で疑問があれば、AIに質問してみましょう。たとえば:
- 「うちのチームの開発テーマだと、ペルソナはどんな人物像が考えられる?」
- 「ペルソナとユーザーストーリーの違いは何?」
- 「実務では複数のペルソナを作ることもあるの?」
演習
演習の進め方
チームで、開発テーマの利用者を1人思い浮かべ、以下の項目を含むペルソナを定義してください。
- 名前(フルネームでなくても、呼びやすい名前でよい)
- 属性(年齢・職業・生活スタイルなど、開発テーマに関係する情報)
- 課題(そのシステムを必要とする理由・困りごと)
- ゴール(そのシステムを使って何を達成したいか)
まずは各自3分程度で思いつく要素を書き出し(ブレインストーミング)、その後チームで1人のペルソナに統合してください。
- 演習終了後チーム毎に決めたことを発表してください
成果物
🗣️ 要約
「ペルソナシート」(名前・属性・課題・ゴールを1枚にまとめたもの)を完成させる
「ペルソナシート」(名前・属性・課題・ゴールを1枚にまとめたもの)
ヒント
🗣️ 要約
意見が割れたら「一番の困りごとを解決したいのは誰か」に立ち返る 具体的すぎないか抽象的すぎないか迷ったらAIに聞いてみるのも手 完璧を求めず、後で見直せば十分
- 意見が割れたら、「今日決めた開発テーマの一番の困りごとを解決したいのは、どんな人か?」という問いに立ち返ってみてください
- 「顔が思い浮かぶか」で判断に迷ったら、AIに「このペルソナ像は具体的すぎず抽象的すぎず、ちょうどよいか」と聞いてみるのも手です
- 完璧なペルソナを最初から作る必要はありません。この後の演習で使いながら、必要ならいつでも見直せます
まとめ(5分)
🗣️ 要約
ペルソナは「判断に迷ったときに立ち返る共通の物差し」 今日作ったペルソナは、次のセッション9の分類演習で何度も使う
今回学んだことを一言でまとめると、「ペルソナは、判断に迷ったときに立ち返る共通の物差しである」ということです。
今日作ったペルソナシートは、このあとのセッション9「情報定義書の整理・分類」で何度も登場します。分類に迷ったときは、必ずこのペルソナに立ち返ってみてください。
🔄 振り返りチェック
🗣️ 要約
ペルソナとターゲット層の違いを説明できるか、自チームのペルソナの課題を人に説明できるかを自己チェックする
以下の問いに答えられるか確認してみましょう:
- ペルソナと「ターゲット層」の違いを説明できますか?
- 自分のチームのペルソナが「なぜその課題を抱えているか」を、他の人に説明できますか?
答えに自信がない場合は、該当部分を読み返すか、AIに質問してみてください。
補足資料
🗣️ 要約
外部参考リンクは特になし。余裕があれば「サブペルソナ」も考えると主ペルソナの輪郭がより明確になる
- 参考リンク: なし(社内・チーム内で完結する演習のため、外部リンクは特に指定しません)
- 発展課題: 余裕があるチームは、正反対の属性を持つ「サブペルソナ」を1人考えてみると、主ペルソナの輪郭がより明確になります
学習ガイド
🗣️ 要約
受講者からよく出る質問への回答例と、つまずきやすいポイントへの対処法をまとめている
このセクションは、受講者が理解を深めることをサポートする参考情報です。
想定される質問と回答例
🗣️ 要約
「ペルソナは何人まで作ってよいか」「意見が合わないときどうするか」「実在の人をモデルにしてよいか」といった質問への回答例
質問 ヒント ペルソナは何人まで作ってよいか 実務では複数作ることもあるが、本演習ではまず「決定を1本化する」ことを体験してほしいので1人に絞るとよい チームの中でペルソナ像の意見が合わない 開発テーマの「一番の困りごと」を先に1つ決め、それを最も強く抱えている人物として描くと収束しやすい ペルソナは実在の人(自分や知人)をモデルにしてよいか 構わないが、その人個人の特殊事情に寄りすぎないよう、属性は少し一般化するとよい
つまずきやすいポイント
🗣️ 要約
属性の羅列で終わる/顔が思い浮かばず漠然とする/ターゲット層の説明で終わる、という3つのつまずきが起きやすい
つまずきポイント ヒント 属性の羅列で終わり、課題が書けていない 「その人は普段どんな場面で困っているか」を具体的なシーンとして想像してもらう ペルソナが漠然としすぎて「顔が思い浮かばない」 名前を付ける、年齢や職業を具体的な1点に絞る、といった小さな具体化から始めるとよい ターゲット層(集団)の説明で終わってしまう 「その集団の中の1人を選ぶとしたら誰?」と問い直し、個人像に絞り込む