情報の洗い出しと整理・分類〜カードソーティング
概要
- 日程: Day 4 / セッション 1
- 時間: [9:30-9:55]
- 形式: 座学
- ゴール: 「整理」(必要な情報を残し不要な情報を捨てる)と「分類」(カテゴリ分け)の違いを説明し、オープン/クローズド・カードソーティングを使い分けられる
- 学習形式: 対話型解説、デモンストレーション
導入(5分)
昨日までに、ペルソナとカスタマージャーニーマップ(As-Is版・To-Be版)が完成しました。「誰の・どんな体験を・どう変えるか」が決まった状態です。
今日からは情報設計の後半に入ります。流れを確認しましょう。
Day 2"] --> B["テーマ決定
Day 2"] B --> C["ペルソナ
Day 3"] C --> D["CJM
Day 3"] D --> E["情報定義
Day 4 今日"] E --> F["情報モデル
Day 4 今日"]
ここで問いかけです。あなたのチームのシステムは、どんな情報を扱うでしょうか?
たとえば飲食店の予約システムなら「店の名前」「予約日時」「人数」「会員のメールアドレス」……数えだすとキリがありません。システムとは、突き詰めれば情報を処理する装置です。扱う情報が曖昧なままでは、画面もデータベースも設計できません。
今日の最初のセッションでは、情報を洗い出し、整理し、分類する方法を学びます。その道具が「カードソーティング」です。
本編(15分)
1. 「整理」と「分類」は別物〜部屋の片付けで考える
情報設計の後半は、次の2ステップで進みます。
- 開発テーマで登場する情報を全て洗い出して列挙する
- 洗い出した情報を整理・分類する
ここで大事なのが、「整理」と「分類」を区別することです。日常では混ぜて使う言葉ですが、情報設計では明確に別の作業です。
- 整理: 必要な情報を残し、不要な情報を捨てること
- 分類: 情報をカテゴリ分けすること
部屋の片付けに例えましょう。クローゼットがパンパンだとします。
- いきなり服を「トップス/ボトムス/アウター」に分けて収納ケースに入れる——これは分類だけして整理していない状態。着ない服までしまっているので、ケースが足りなくなります
- まず「1年着ていない服を捨てる」のが整理。残った服を「トップス/ボトムス/アウター」に分けるのが分類です
順番も重要です。整理が先、分類が後。捨てるべき情報まで分類してしまうと、労力の無駄になるだけでなく、後の設計に「使わない情報」が紛れ込みます。
では、ここで少し考えてみてください。飲食店予約システムの情報候補に「ペルソナの好きな芸能人」が挙がりました。これは整理で残すべきでしょうか?
——予約という処理に使わないなら、捨てます。一方「アレルギー情報」はどうでしょう。メニュー提案に使うなら残します。判断基準は「そのシステムの処理に必要か」です。好き嫌いではありません。
ここがポイント
- 整理 = 捨てる、分類 = 分ける。順番は整理→分類
- 捨てる基準は「システムの処理に必要か」。ペルソナとCJM(To-Be版)が判断の根拠になる
- よくある間違い: 「いつか使うかも」で全部残す。残した情報はすべて設計・実装のコストになる。迷ったら「To-Be版CJMのどの場面で使う?」と自問する
コラム
「整理」と「整頓」を区別する文化は、日本の製造業の「5S」(整理・整頓・清掃・清潔・躾)が世界的に有名です。トヨタの工場では「整理とは捨てる技術である」と教えられ、要らない物に赤い札を貼って撤去する「赤札作戦」という活動まであります。面白いことに、世界中の工場でこの概念はそのまま「Seiri」「Seiton」と日本語で呼ばれています。英語に訳すと両方「organize」になってしまい、区別が消えるからだそうです。情報設計でも「捨てる」と「分ける」の区別は、それくらい本質的なのです。
2. カードソーティング〜オープンとクローズドの使い分け
分類の代表的な手法がカードソーティングです。情報を1枚1枚のカード(付箋)に書き出し、似たものをグループにまとめていきます。手法は2種類あります。
- オープン・カードソーティング: カテゴリを決めずに始める。カードを並べながら、自然なまとまりを見つけ、グループに後から名前を付ける
- クローズド・カードソーティング: カテゴリをあらかじめ決めておき、カードを既存のカテゴリに振り分ける
具体例で違いを見ましょう。題材は「飲食店予約システム」の情報カード20枚(店名・予約日時・人数・席種・会員名・メールアドレス・電話番号・アレルギー情報・クーポンコード・支払金額……)です。
オープンの場合: カードをテーブルに広げ、「店名と席種は近いね」「会員名とメールアドレスも仲間だね」と寄せていきます。まとまりができたら「これは『お店の情報』」「これは『会員の情報』」と命名します。結果、チームが想定していなかった「クーポン・支払い系」のまとまりが見つかるかもしれません。カテゴリそのものを発見するのがオープンです。
クローズドの場合: 先に「店舗情報」「会員情報」「予約情報」という箱を用意し、各カードをどれかに入れていきます。「アレルギー情報はどの箱?」と迷うカードが出たら、それはカテゴリ設計の曖昧さを示すシグナルです。既存カテゴリの妥当性を検証する・素早く振り分けるのがクローズドです。
使い分けの目安は次の通りです。
| オープン | クローズド | |
|---|---|---|
| カテゴリ | 後から発見して命名 | 事前に用意 |
| 向いている場面 | カテゴリの当たりがついていない初期段階 | カテゴリ案があり検証したいとき、追加情報を振り分けるとき |
| 得られるもの | 新しい分類の気づき | カテゴリの妥当性確認、分類の速さ |
つまり、まずオープンで分類を発見し、カテゴリが固まったらクローズドで検証・追補するのが王道です。今日の次のセッション(情報定義書の作成)でも、この順番で使います。
逆に、該当しない使い方も確認しましょう。最初からチームリーダーが「カテゴリはこの5つ!」と宣言してクローズドだけで進めるのは、初期段階では危険です。なぜなら、思い込みの外にあるカテゴリ(さっきの「クーポン・支払い系」のような)を発見する機会を失うからです。
コード例・実例
カードソーティングのデモ(ミニ版)。次の8枚のカードを、まずオープンでやってみるとどうなるでしょうか。
[ 店名 ] [ 予約日時 ] [ 会員名 ] [ 席数 ]
[ メールアドレス ] [ 予約人数 ] [ 営業時間 ] [ キャンセル理由 ]
自然な寄せ方の一例です。
- 店名・席数・営業時間 → 「お店に関する情報」
- 会員名・メールアドレス → 「会員に関する情報」
- 予約日時・予約人数・キャンセル理由 → 「予約に関する情報」
カテゴリ名は最後に付けた点に注目してください。これがオープンです。次に新しいカード「電話番号」が出てきたら、今度は3つのカテゴリへ振り分けるだけ——これがクローズドです(ちなみに「電話番号」は店の電話か会員の電話かで行き先が変わりますね。こういう曖昧さの発見もクローズドの効能です)。
ここがポイント
- オープン = カテゴリを発見する、クローズド = カテゴリを検証・活用する
- 「どのカテゴリにも入らないカード」「複数カテゴリに入りそうなカード」は失敗ではなく、設計を見直す貴重なシグナル
- よくある間違い: 1枚のカードに複数の情報を書く(例: 「会員の名前と住所」)。カードは必ず1枚1情報にする。分類の単位が崩れるため
コラム
カードソーティングは、もともと心理学で人間の概念構造を調べる実験手法でした。それをWebサイトの情報設計(IA: Information Architecture)に持ち込んだのが1990年代後半のWeb業界です。大規模サイトのメニュー構成を決めるとき、設計者の思い込みではなく「ユーザーが自然だと感じる分類」を知るために、実際のユーザーにカードを並べてもらいました。ある大手サイトの調査では、設計者が作った分類とユーザーの分類が半分以上食い違っていたという報告もあります。「自分にとって自然な分類」が「他人にとって自然」とは限らない——だからこそ、チームで手を動かして分類する価値があるのです。
💬 AIに聞いてみよう
ここまでの内容で疑問があれば、AIに質問してみましょう。たとえば:
- 「『整理』と『分類』の違いを、料理に例えてもう一度説明して」
- 「オープン・カードソーティングとクローズド・カードソーティング、ECサイトを題材にした使い分け例を見せて」
- 「カードがどのカテゴリにも入らないとき、実務ではどう対処するの?」
まとめ(5分)
今回学んだことを一言でまとめると「情報は、捨ててから(整理)、分けて(分類)、カードソーティングで形にする」です。
- 整理 = 必要な情報を残し不要な情報を捨てる。分類 = カテゴリ分け。順番は整理→分類
- オープン・カードソーティングはカテゴリの発見、クローズド・カードソーティングはカテゴリの検証・振り分け
- 迷うカード・あふれるカードは、設計を良くするシグナル
次のセッションでは、いよいよ自分たちの開発テーマで情報を30個以上洗い出し、カードソーティングで整理・分類して「情報定義書」を作成します。昨日のペルソナとCJMを手元に準備しておいてください。
🔄 振り返りチェック
以下の問いに答えられるか確認してみましょう:
- 「整理」と「分類」の違いを、自分の言葉とたとえ話で説明できますか?
- オープンとクローズドのカードソーティングの違いを説明できますか?
- 「最初はオープン、固まったらクローズド」という使い分けの理由を説明できますか?
- 情報を捨てるかどうかの判断基準は何でしたか?
答えに自信がない場合は、該当部分を読み返すか、AIに質問してみてください。
補足資料
- 参考リンク: 情報アーキテクチャ(IA)の入門記事をAIに紹介してもらいましょう(「カードソーティング 情報設計 入門」で検索)
- 発展課題: 自分のスマホのホーム画面のアプリを題材に、オープン・カードソーティングでフォルダ分類を作り直してみましょう。今の分類との違いが発見できます
学習ガイド
このセクションは、受講者が理解を深めることをサポートする参考情報です。
想定される質問と回答例
| 質問 | ヒント |
|---|---|
| 整理で捨てた情報は二度と使えない? | 捨てたカードは「捨て候補置き場」に取っておけばよい。後工程で必要と分かれば戻せる。まず主戦場から外すことが大事 |
| カテゴリ数はいくつぐらいが適切? | 開発テーマの規模によるが、3〜7個程度が目安。多すぎると後の情報モデルが細分化しすぎる |
| オープンとクローズドはどちらが優れている? | 優劣ではなく目的の違い。発見したいならオープン、検証・振り分けたいならクローズド |
| 1枚のカードの粒度はどれくらい? | 「予約」のような大きすぎる単位ではなく「予約日時」「予約人数」のように、それ以上分けると意味を失う単位まで分ける |
つまずきやすいポイント
| つまずきポイント | ヒント |
|---|---|
| 整理を飛ばして分類から始めてしまう | 分類前に「これはTo-Be版CJMのどの場面で使う?」と1枚ずつ確認する時間を取る |
| カテゴリ名が曖昧(「その他」が肥大化する) | 「その他」が3枚を超えたら、その中に隠れたカテゴリがないかオープンでやり直す |
| 複数カテゴリに入るカードで議論が止まる | 止まったらまず付箋を複製して両方に置き、印を付けておく。次セッション以降(情報モデル定義)で扱いを決めればよい |
| 「整理=きれいに並べること」と誤解する | 整理の定義は「捨てること」。並べるのは分類。用語の定義に立ち返る |