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カスタマージャーニーマップの作成(As-Is版・To-Be版)

概要

  • 日程: Day 3 / セッション 3
  • 時間: [11:10-12:40]
  • 形式: 実習
  • ゴール: ペルソナの行動・思考・感情を時系列で整理し、As-Is版とTo-Be版のCJMを2枚、時間内に作成できる
  • 学習形式: ハンズオン実習(AIサポートあり)、グループワーク

導入(5分)

前のセッションで、チームのペルソナが誕生しました。名前を持ち、生活パターンを持ち、課題を抱えた1人の人物です。

ここで問いかけです。そのペルソナは、1日のどの瞬間に、その課題で困っているのでしょうか?

「課題がある」ことは分かっていても、「いつ・どこで・どんな気持ちで困っているか」までは、まだ言葉になっていないはずです。映画に例えると、主人公(ペルソナ)のキャラクター設定はできました。次はストーリーボード(絵コンテ)を描く番です。

このセッションでは、ペルソナの体験を時系列の地図にします。

  • As-Is版: システムがない現在。どこで感情が沈むか(ペイン)を特定する
  • To-Be版: 自分たちのシステムがある未来。体験がどう変わり、満足に至るか

完成したら、チーム間で相互発表します。2枚の差分が「私たちのシステムの価値」として語れるか——それがゴールです。

本編(15分)

1. CJMの作り方〜4つのレーンで体験を分解する

CJMは、横軸に時系列の段階(フェーズ)、縦軸に**行動・思考・感情・課題(ペイン)**のレーンを置いた表です。

レーン 書くこと
行動 ペルソナが実際にすること 「閉店間際のスーパーに駆け込む」
思考 そのとき頭の中で考えていること 「あと10分しかない」
感情 気持ちの状態(😊😐😟😣などで起伏を表す) 😣
課題(ペイン) 困りごと・不満(As-Is版で特に重要) 「惣菜が売り切れている」

作る手順は次の通りです。

  1. ペルソナの課題が発生する一連の体験を選ぶ(例: 「平日の夕食準備」という体験)
  2. 体験を4〜7個の段階に区切る(例: 仕事中→退社→帰路→買い物→帰宅後)
  3. 段階ごとに「行動」を埋める
  4. 行動に対応する「思考」「感情」を埋める
  5. 感情が沈む場所に「課題(ペイン)」を書き込む

ここで少し考えてみてください。なぜ「行動」から先に埋めるのでしょうか?

理由は、行動が一番事実に近いからです。思考や感情は行動という土台があって初めて具体的に想像できます。いきなり「このとき悲しい」と書いても、何をしていて悲しいのか分からなければ設計に使えません。

コード例・実例

As-Is版の例(ペルソナ: 田中健太さん、課題: 「保育園の送り迎えと仕事の両立で自分の時間が取れない」)。

段階 出勤前 仕事中 退社・お迎え 帰宅後 就寝前
行動 娘を保育園へ送る 残業を断り定時で切り上げる 急いでお迎えに行く 夕食・風呂・寝かしつけ 家事の残りを片付ける
思考 「今日も時間との戦いだ」 「仕事が終わらない…」 「電車が遅れたらアウト」 「自分の時間はいつ…」 「もう寝よう…」
感情 😐 😟 😣 😞 😞
課題 業務を持ち帰れない 遅延時の連絡手段がない 家事に追われる 自由時間ゼロ

感情のレーンを左から右へ眺めてください。😐→😟→😣→😞→😞と沈んでいきます。この感情曲線の谷が、システムで解決すべきポイントです。

ここがポイント

  • 主語は常にペルソナ。「ユーザーは」ではなく「健太さんは」で書くと具体性が保たれる
  • 感情レーンは必ず起伏をつける。全部😐のCJMは観察が足りないサイン
  • よくある間違い: 段階を細かく刻みすぎて20列の表になる。4〜7段階に収め、課題と関係の薄い段階は思い切ってまとめる

コラム

CJMの「感情曲線」には、行動経済学の有名な法則が関係しています。ノーベル賞学者ダニエル・カーネマンの「ピーク・エンドの法則」——人は体験全体の平均ではなく、**感情のピーク(最高か最悪の瞬間)と最後(エンド)**で体験を記憶する、というものです。だからCJMで「感情が一番沈む瞬間」を特定して改善すると、体験全体の印象が劇的に変わります。ディズニーランドが退園ゲート付近の演出に力を入れるのも、この「エンド」を最高にするためだと言われています。

2. To-Be版〜システムがある未来を描く

To-Be版は、顧客が満足するまでの経緯を描きます。As-Is版と同じ段階構成をベースに、自分たちのシステムが登場した未来の体験を書きます。

注意してほしいのは、To-Be版は機能仕様書ではないということです。「プッシュ通知機能がある」は該当しません。書くべきは「健太さんはお迎え前に通知を見て、安心して仕事を締めくくる😊」——あくまでペルソナの体験です。なぜなら、CJMの目的は機能を列挙することではなく、体験の変化(価値)を確かめることだからです。

ビフォーアフターのリフォーム番組を思い出してください。番組が見せるのは壁材の品番ではなく「家族が広いリビングで笑っている姿」です。To-Be版もそれと同じです。

To-Be版を作る手順は以下です。

  1. As-Is版をコピーし、感情が沈んでいた段階に注目する
  2. その段階で「システムがあると体験がどう変わるか」を行動・思考・感情で書き換える
  3. 感情曲線が回復し、最後に満足(😊)へ到達するストーリーになっているか確認する
flowchart TB A["As-Is版を完成させる"] --> B["感情が沈む段階(ペイン)を特定する"] B --> C["その段階の体験をシステムがある前提で書き換える"] C --> D["感情曲線が満足に到達するか確認する"] D --|到達しない場合|--> B

ここがポイント

  • As-Is版とTo-Be版は同じ段階構成で作ると、差分が一目で比較できる
  • すべてのペインを解決しようとしない。自分たちの開発テーマで解決できるペインに絞る
  • よくある間違い: To-Be版の感情が最初から最後まで😊になる。システムがあっても変わらない部分は変えないのがリアル。変化点が際立つほど価値が明確になる

コラム

「As-Is / To-Be」という言葉は、もともと業務改革(BPR)の世界で使われてきた用語です。1990年代、米国企業が業務プロセスを「現状(As-Is)」と「あるべき姿(To-Be)」の2枚の図で比較する手法を広めました。面白いのは、多くの企業で「As-Isを描いた時点で問題の8割が見えてしまった」と報告されていることです。人は「現状を正確に見える化する」だけで、解決策の大半に気づけるのです。To-Beが描けずに悩んだら、まずAs-Isの解像度を上げましょう。

💬 AIに聞いてみよう

実習を始める前に、疑問があればAIに質問してみましょう。たとえば:

  • 「CJMの段階の区切り方が分からない。『〜という体験』の場合の段階例を提案して」
  • 「As-Is版とTo-Be版で段階構成を変えたくなったら、どうすればいい?」
  • 「感情の起伏がうまく書けない。思考から感情を導くコツを教えて」

実習・演習

課題

前セッションで作成したペルソナを主人公に、CJMを2枚作成してください。

  1. (10分)体験の範囲と段階を決める: ペルソナの課題が発生する体験を1つ選び、4〜7段階に区切る。チームで合意してから次へ進む
  2. (25分)As-Is版の作成: 段階ごとに行動→思考→感情→課題の順で埋める。AIにペルソナを演じさせて「この場面で何を考えますか?」と聞きながら埋めるのも有効。完成したら感情曲線の谷(ペイン)に印をつける
  3. (25分)To-Be版の作成: As-Is版をベースに、自分たちのシステムがある未来の体験を描く。ペインがどう解消され、満足に至るかをストーリーとして成立させる
  4. (15分)チーム間相互発表: 他チームとペアになり、2枚のCJMを使って「誰が・どこで困っていて・私たちのシステムでどう変わるか」を3分で発表する。聞き手は「差分(価値)が伝わったか」をフィードバックする(話す&行う)

成果物

「カスタマージャーニーマップ」2枚

  • As-Is版: 行動・思考・感情・課題のレーンがあり、感情の起伏とペインの発生箇所が明示されている
  • To-Be版: 同じ段階構成で、システムによる体験の変化と満足までの経緯が描かれている
  • 2枚を並べたとき、差分が自分たちのシステムの価値として説明できること

ヒント

  • 行動が思いつかない段階は、AIに「ペルソナとして、この場面での行動を3つ挙げて」と聞いてみましょう
  • 感情の表現は😊😐😟😣のような記号で十分です。矢印(↑↓)や折れ線で起伏を描いても構いません
  • To-Be版で手が止まったら「ペインの段階だけ」を先に書き換えましょう。全段階を一度に変えようとしないこと
  • 完成後、AIに「このAs-Is版とTo-Be版を比べて、システムの価値が伝わるか講評して」と依頼すると、相互発表前のリハーサルになります
  • 相互発表で「価値が分からなかった」と言われたら宝物です。どこが伝わらなかったかを聞き、明日の情報定義の材料にしましょう

まとめ(5分)

今回学んだことを一言でまとめると「ペルソナの体験を時系列で見える化し、As-IsとTo-Beの差分として自分たちの価値を語れるようにする」です。

  • CJMは行動・思考・感情・課題のレーンで体験を分解する
  • As-Is版で感情曲線の谷(ペイン)を特定し、To-Be版でその解消と満足への道筋を描く
  • 2枚の差分こそが、開発テーマの提供価値

これでDay 3の成果物(ペルソナのプロフィール、CJM2枚)が揃いました。次回Day 4は、このペルソナとCJMを参照しながら、開発テーマに登場する情報を洗い出し、情報定義書と情報モデル定義書を作ります。今日作った2枚の地図が、明日の入力になります。大切に保管してください。

🔄 振り返りチェック

以下の問いに答えられるか確認してみましょう:

  • CJMの4つのレーン(行動・思考・感情・課題)を順に挙げられますか?
  • 自チームのAs-Is版で、ペルソナの感情が最も沈む瞬間はどこか説明できますか?
  • To-Be版に「機能の説明」を書いてはいけない理由を説明できますか?
  • 2枚のCJMの差分を「誰の・何が・どう変わるか」の形で1分で語れますか?

答えに自信がない場合は、該当部分を読み返すか、AIに質問してみてください。

補足資料

  • 参考リンク: Day3_Session01資料(ペルソナとCJMの基礎)、Day3_Session02成果物(ペルソナのプロフィール)
  • 発展課題: 完成したTo-Be版CJMをAIに見せ、「このペルソナが満足しない可能性があるとしたら、どの段階か」と批判的レビューを依頼してみましょう

学習ガイド

このセクションは、受講者が理解を深めることをサポートする参考情報です。

想定される質問と回答例

質問 ヒント
体験の範囲はどこからどこまで? 課題が発生する前後を含めるのが目安。「困り始める前の平常時」から「課題が(未)解決する瞬間」まで
As-Is版で感情が沈む場所が複数ある 全部書いてよい。ただしTo-Be版で解決するのは開発テーマに対応するペインに絞る
To-Be版にシステムの名前を書いていい? 書いてよい。ただし主役はペルソナの行動・思考・感情。システムは脇役として登場させる
2枚の段階構成は完全に同じでないとダメ? 原則同じにすると比較しやすい。システムにより段階自体が消える場合(例: 買い物に行く必要がなくなる)は、その差分も価値として説明する

つまずきやすいポイント

つまずきポイント ヒント
思考と感情の区別がつかない 思考は「言葉になっている内容」(〜だと考える)、感情は「気持ちの状態」(嬉しい・不安・苛立ち)。思考を書いてから「で、どんな気持ち?」と自問する
To-Be版が機能一覧になる 各セルの主語をペルソナに戻す。「通知が届く」→「健太さんは通知を見て安心する」
時間内に2枚終わらない As-Is版のペイン特定までは丁寧に。To-Be版はペインの段階を優先して書き、他はAs-Isを流用して調整する
相互発表で価値が伝わらない 「As-Isのこの瞬間😣が、To-Beではこう変わる😊」と感情の対比から話すと伝わりやすい
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