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ペルソナとカスタマージャーニーマップ

概要

  • 日程: Day 3 / セッション 1
  • 時間: [9:30-10:00]
  • 形式: 座学
  • ゴール: ペルソナの定義(価値を提供する相手を描き出した象徴的な人物像)と属性例を挙げ、As-Is版とTo-Be版のCJMの違いを説明できる
  • 学習形式: 対話型解説、デモンストレーション

導入(5分)

昨日、チームで「取り組む課題」と「開発テーマ」を決めました。今日はその続きです。

ここで質問です。あなたのチームが作るシステムは、誰のためのものですか?

「困っている人のため」——そう答えたくなりますね。でも「困っている人」とは誰でしょう。年齢は?仕事は?毎日どんな生活をしている?

実は、システム開発の失敗で最も多い原因の1つが「誰のために作るのかが曖昧なまま進めてしまうこと」です。チームメンバーがそれぞれ違う「誰か」を思い浮かべたまま開発すると、ちぐはぐな製品ができあがります。

今日学ぶ2つの道具が、これを防ぎます。

  • ペルソナ: 価値を提供する相手を、1人の人物として具体的に描き出す
  • カスタマージャーニーマップ(CJM): その人物の体験を時系列で見える化する

このセッションは座学です。次のセッションから、実際にチームで作っていきます。

本編(20分)

1. ペルソナとは〜「20代女性」では足りない理由

ペルソナとは、誰に対して価値を提供するのかを想定し、描き出した象徴的な人物像です。

「ターゲットは20代女性です」——マーケティングでよく聞く言葉ですね。でも、ここで少し考えてみてください。「20代女性」には、次の2人が両方含まれます。

  • 都心で働く26歳の会社員。通勤は満員電車で50分。スマホは常に手元にある
  • 地方で2歳の子どもを育てる29歳。車移動が中心。スマホを見られるのは子どもが寝た後だけ

この2人に同じシステムが刺さるでしょうか?通知を出すベストな時間帯すら正反対です。「20代女性」は範囲が広すぎて、設計の判断材料になりません。これはペルソナに該当しない例です。

一方、ペルソナはこうなります。

佐藤美咲、26歳、女性。東京都世田谷区在住。IT企業の営業職3年目。平日は7時起床、満員電車で50分通勤。昼休みは12時から45分。帰宅は20時すぎ。価値観は「時間を無駄にしたくない」。課題は「平日に夕食の買い物をする時間がない」。一人暮らし。趣味はヨガと海外ドラマ。スマホ利用は1日4時間、SNSはInstagram中心。

ここまで具体的だと、チームで議論ができます。「美咲さんは帰宅が20時だから、この機能は通勤電車の中で使えないとダメだよね」——人物像が共有されていると、判断が速く、ブレません。

ペルソナの属性例は次の通りです。

  • 名前・年齢・性別・居住地
  • 仕事(職種・働き方)
  • 生活パターン(起床・通勤・帰宅などの1日の流れ)
  • 価値観
  • 課題(困っていること)
  • 家族構成
  • 趣味や興味の対象
  • インターネットの使用状況

これは、小説の主人公づくりに似ています。優れた小説家は、本編に書かない設定まで決めるそうです。人物が具体的であるほど「この人ならこうするはず」という行動が自然に予測できるからです。

ここがポイント

  • ペルソナは「実在しそうな1人」を描く。「層」や「属性の集合」ではない
  • 属性同士に一貫性があること。「年収300万円なのに毎週高級レストラン通い」では実在感がない
  • よくある間違い: チームの願望を反映した「都合のいいペルソナ」を作ってしまう(例: 「私たちのアプリを毎日使いたがっている人」)。ペルソナはあくまで課題を抱えた現実の人物像として描く

コラム

「ペルソナ(persona)」の語源は、古代ローマの演劇で役者がかぶった「仮面」です。心理学者ユングが「人が社会に向けて見せる顔」という意味で使い、1990年代にソフトウェア設計者のアラン・クーパーが開発手法に持ち込みました。クーパーは航空機の予約システムを設計するとき、たった1人の架空ユーザー「メアリー」を徹底的に作り込み、「メアリーはこの画面で迷うか?」だけを基準に設計したそうです。「全員を満足させようとすると、誰も満足しない」——これがペルソナ誕生のきっかけでした。

2. カスタマージャーニーマップ〜体験を時系列で見える化する

ペルソナができたら、次はその人の**体験の旅(ジャーニー)**を地図にします。これがカスタマージャーニーマップ(CJM)です。

CJMは、ペルソナの行動・思考・感情を時系列に並べた表です。旅行のしおりに例えると分かりやすいでしょう。しおりには「何時にどこへ行き、何をするか」が時系列で書かれています。CJMはそれに加えて「そのとき何を考え、どう感じるか」まで書き込みます。

本研修では、CJMを2枚作ります。ここが重要です。

  • As-Is版: 現在の状況。ペルソナが今、課題に対してどう行動し、どこで困っているか
  • To-Be版: 顧客が満足するまでの経緯。自分たちのシステムがある未来で、ペルソナの体験がどう変わるか

ここで少し考えてみてください。なぜわざわざ2枚作るのでしょうか?1枚ではダメなのでしょうか?

答えは「差分こそが、あなたたちのシステムの価値だから」です。

  • As-Is版で感情が落ち込む場所 = ペルソナの痛み(ペイン)= 解決すべき課題
  • To-Be版で感情が上向く場所 = システムが提供する価値

健康診断に例えると、As-Is版は「現在の検査結果」、To-Be版は「改善後の目標値」です。2つを比べて初めて「どこをどれだけ良くするのか」が言えます。

コード例・実例

CJMの基本構造はこのような表です(As-Is版の例: 「平日に夕食の買い物をする時間がない」美咲さんの場合)。

段階 仕事中 退社 帰路 帰宅後
行動 夕食を考える余裕なし 20時に退社 スーパーに寄るか迷う 結局コンビニ弁当
思考 「今日こそ自炊したい」 「スーパー混んでるかな」 「閉店まで30分しかない」 「また弁当か…」
感情 😐 😟 😣 😞

感情の行を眺めると、どこでペインが発生しているか一目で分かります。

flowchart LR P["ペルソナを定義する"] --> A["As-Is版CJM
現在の体験と痛み"] A --> T["To-Be版CJM
システムがある未来の体験"] A --|差分 = 提供価値|--> T

ここがポイント

  • CJMの主役はペルソナ。「自分ならこうする」ではなく「美咲さんならこうする」で書く
  • 感情の起伏を必ず入れる。感情が下がる場所がないAs-Is版は、課題を捉えられていないサイン
  • よくある間違い: To-Be版に「システムの機能説明」を書いてしまう。書くべきはあくまでペルソナの体験(行動・思考・感情)

コラム

カスタマージャーニーという考え方を世界中に広めた有名な事例に、ヨーロッパの鉄道会社の調査があります。利用者の不満を調べたところ、列車の遅延そのものより「あと何分待つのか分からないこと」への不満が大きいと判明しました。そこで巨額の費用がかかる増便ではなく「残り時間を表示する電光掲示板」を設置したところ、顧客満足度が大きく改善したそうです。体験を時系列で観察すると、本当の課題は意外な場所にある——CJMの威力を物語る話です。

💬 AIに聞いてみよう

ここまでの内容で疑問があれば、AIに質問してみましょう。たとえば:

  • 「ペルソナとターゲットの違いを、別の例でもう一度説明して」
  • 「As-Is版とTo-Be版のCJMの簡単なサンプルを『飲食店の予約』を題材に作って見せて」
  • 「ペルソナを複数作ってもいいの?実務ではどうしているの?」

まとめ(5分)

今回学んだことを一言でまとめると「誰のためのシステムかを、1人の人物像(ペルソナ)と体験の地図(CJM)で具体化する」です。

  • ペルソナ = 価値を提供する相手を描き出した象徴的な人物像。属性に一貫性を持たせる
  • CJMは2枚作る。As-Is版(現在の痛み)とTo-Be版(システムがある未来)
  • 2枚の差分が、あなたたちのシステムの価値になる

次のセッションでは、いよいよチームでペルソナのプロフィールを作成します。AIにペルソナを演じてもらう、面白い手法も体験します。

🔄 振り返りチェック

以下の問いに答えられるか確認してみましょう:

  • ペルソナの定義を自分の言葉で説明できますか?
  • 「20代女性」がペルソナとして不十分な理由を説明できますか?
  • ペルソナの属性例を5つ以上挙げられますか?
  • As-Is版とTo-Be版のCJMの違いと、2枚作る理由を説明できますか?

答えに自信がない場合は、該当部分を読み返すか、AIに質問してみてください。

補足資料

  • 参考リンク: アラン・クーパー『コンピュータは、むずかしすぎて使えない!』(ペルソナ手法の原典)
  • 発展課題: 自分がよく使うアプリ(地図、SNS、決済など)の「想定ペルソナ」を逆算して推測し、AIと答え合わせをしてみましょう

学習ガイド

このセクションは、受講者が理解を深めることをサポートする参考情報です。

想定される質問と回答例

質問 ヒント
ペルソナは架空の人物なのに、なぜ役に立つの? 架空でも「実在しそうな一貫性」があれば行動を予測できる。チーム全員が同じ人物像を共有でき、設計判断の基準になる
ペルソナは1人だけでいいの? 実務では複数作ることもあるが、まず最重要の1人(プライマリペルソナ)に絞るのが原則。本研修でも1人に絞る
As-Is版に自分たちのシステムを登場させていい? ダメ。As-Is版は「システムがない現在」の体験。システムが登場するのはTo-Be版だけ
CJMの段階(フェーズ)はいくつに分ければいい? 課題が発生する前後を含めて4〜7段階程度が目安。細かすぎると本質が見えなくなる

つまずきやすいポイント

つまずきポイント ヒント
ペルソナの属性がバラバラで実在感がない 「この年齢・仕事・居住地なら、生活パターンはどうなる?」と属性間の因果を確認する。AIに「この人物像に矛盾はない?」と聞くのも有効
ペルソナがチームに都合のいい人物になる 「私たちの製品を欲しがる人」ではなく「課題に困っている人」として描く
To-Be版が機能一覧になってしまう 主語をペルソナに戻す。「システムが通知する」ではなく「美咲さんは通知を見て安心する」
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