開発テーマの決め方〜情報処理をともなうシステムとは
概要
- 日程: Day 2 / セッション 3
- 時間: [11:10-11:35]
- 形式: 座学
- ゴール: 「情報処理をともなうシステム」に該当する例と該当しない例をそれぞれ2つ以上挙げ、課題候補を絞り込む評価軸を説明できる
- 学習形式: 対話型解説、ケーススタディ
導入(5分)
前のセッションで、課題候補が20個以上集まりましたね。お疲れさまでした。
でも、22日間で取り組めるのは1つだけです。どうやって選べばいいのでしょうか?
ここで思い出してください。セッション1で学んだ開発テーマの前提条件です。
情報処理をともなうシステムの開発であること。
これは服選びに例えると「サイズが合っていること」のような、絶対条件です。どんなに素敵なデザインの服でも、サイズが合わなければ買えません。同じように、どんなに良い課題でも、その解決策が「情報処理をともなうシステム」にならないなら、このPBLのテーマには選べません。
このセッションでは、(1) 「情報処理をともなう」とは何か、(2) 候補を絞り込む評価軸、の2つを学びます。
本編(15分)
1. 「情報処理をともなうシステム」とは〜該当例と非該当例
「情報処理」とは、情報を入力し、加工・蓄積し、出力することです。
(情報を受け取る)"] --> B["処理
(加工・蓄積・検索・計算)"] B --> C["出力
(役立つ形で返す)"]
つまり「情報処理をともなうシステム」とは、データを受け取り、ためて、加工して、誰かの役に立つ形で返す仕組みのことです。
具体例と非具体例を対比してみましょう。
該当する例(その1): 飲食店の順番待ち管理システム
来店客の受付情報を入力し、待ち行列として蓄積し、待ち組数や予想時間を計算して出力します。入力→処理→出力が揃っています。
該当する例(その2): サークルの備品貸出管理システム
「誰が・何を・いつ借りたか」を記録し、貸出中か返却済みかを管理し、未返却の一覧を表示します。情報の蓄積と検索が中心にあります。
では、該当しない例はどうでしょうか。
該当しない例(その1): 「ゴミ拾いボランティアを月1回開催する」
これは素晴らしい活動ですが、活動そのものは情報処理ではありません。人が集まって掃除をするだけなら、システムの出る幕がないのです。ただし注目してください。「参加者の募集・出欠管理・活動記録の共有」という形に捉え直せば、情報処理をともなうシステムに変換できます。
該当しない例(その2): 「おしゃれなデザインのエコバッグを作る」
モノづくり(プロダクトデザイン)であり、情報の入力・蓄積・出力がどこにもありません。「啓発ポスターを作る」「マスコットキャラを作る」も同じ仲間です。
該当しない例(その3): 「電卓で1回計算するだけのページ」
意外に思うかもしれませんが、これは境界例です。計算(処理)はありますが、情報を蓄積せず、ユーザーごとの状態も持ちません。このPBLではDay 4以降に情報モデルを定義し、Day 7でデータベースを設計します。ためる情報がないテーマは、後の工程で空っぽになってしまうのです。
見分けるための簡単な問いはこれです。
- 「このシステムは、何の情報を、ためて、どう加工して、誰に返すのか?」
この問いに具体的に答えられれば該当、答えに詰まれば非該当のサインです。
ここがポイント
- 情報処理 = 入力→加工・蓄積→出力。3つが揃っているかを確認する
- 「活動・モノづくり」そのものは非該当。ただし「その活動を支える情報管理」に捉え直せば該当になることが多い
- ためる情報(蓄積)がないテーマは、Day 4以降の情報定義・DB設計で行き詰まる
- よくある間違い: 「アプリっぽいから大丈夫」と思い込むこと。見た目がアプリでも、情報をためないなら情報処理が薄い
コラム
「情報処理」という言葉が日本で公式デビューしたのは意外と古く、1960年に「情報処理学会」が設立され、1970年には「情報処理振興事業協会(IPAの前身)」が生まれました。当時のコンピュータの主な仕事は給与計算や銀行の勘定処理。つまり「大量の情報をためて、計算して、帳票で出す」ことでした。半世紀以上たった今、スマホアプリもSNSもAIも、突き詰めれば「入力→処理→出力」の3点セットは変わっていません。技術は変わっても原理は変わらない。だからこの3点セットで見分ける方法は、流行に左右されない一生モノの物差しなのです。
2. 課題候補を絞り込む評価軸〜実現可能性と価値
前提条件(情報処理をともなう)をクリアした候補が複数残ったら、次は2つの軸で評価します。
- 価値: 解決されたら、どれくらい嬉しい人がいるか。困りごとの深さ×人数
- 実現可能性: 自分たちのチームが、残り期間(実装は実働約8日)で形にできるか
この2軸でマトリクスを作ると、候補の位置づけが見えます。
| 実現可能性が低い | 実現可能性が高い | |
|---|---|---|
| 価値が高い | 工夫して範囲を縮小すれば候補 | 本命ゾーン |
| 価値が低い | 見送り | 練習にはなるが感動がない |
狙うべきは右上の「本命ゾーン」、価値が高く実現可能性も高い課題です。
ここで少し考えてみてください。「価値は最高だが実現可能性が低い課題」(左上)は、捨てるしかないのでしょうか?
実は、課題の範囲を縮小するという手があります。たとえば「全国の災害時の安否確認を変える」は8日では無理でも、「自分の研修クラス40人の安否確認連絡網」なら作れるかもしれません。価値の核を残したまま、対象を絞るのです。逆に右下の「簡単だけど誰も困っていない課題」は、作っても発表会で「……で、誰が使うの?」と聞かれてしまいます。
実現可能性を見積もるチェック項目:
- 使う技術は前提知識(プログラミング基礎・データベース基礎)の延長で扱えるか
- 必要なデータは自分たちで用意できるか(外部の特殊なデータが必須だと危険)
- 画面数・機能数が多すぎないか(目安: コア機能2〜3個で価値が伝わるか)
価値を見積もるチェック項目:
- 困っている人の顔が具体的に浮かぶか(Day 3のペルソナにつながる)
- 解決前と解決後で、その人の行動がはっきり変わるか(Day 3のCJM As-Is/To-Beにつながる)
- チームのメンバー自身が「使ってみたい」と思えるか
ここがポイント
- 絞り込みは「前提条件(情報処理をともなう)→価値×実現可能性」の2段階で行う
- 価値が高く実現困難な課題は、対象範囲を縮小して救えないか考える
- 実現可能性の見積もりには実装期間(実働約8日)を必ず織り込む
- よくある間違い: 「全部入り」の壮大なテーマを選ぶこと。コア機能2〜3個で価値が伝わるサイズが22日間のベストサイズ
コラム
「範囲を縮小して成功した」最も有名な例の1つがFacebookです。最初から「全人類をつなぐ」を作ったのではなく、2004年の開始時はハーバード大学の学生だけが使える名簿サービスでした。対象を1つの大学に絞ったからこそ素早く作れて、価値が検証できた。その後、他大学→一般公開と広げていきました。スタートアップの世界にはこんな格言があります。「100人がまあまあ好きなものより、10人が熱烈に愛するものを作れ」。皆さんの22日間も同じです。小さく絞った課題を深く解決するチームのほうが、発表会で強いのです。
💬 AIに聞いてみよう
ここまでの内容で疑問があれば、AIに質問してみましょう。たとえば:
- 「『情報処理をともなうシステム』の該当例と非該当例を、あと5組見せて。境界例も交えて」
- 「『地域の防災活動を活性化したい』という課題を、情報処理をともなうシステムのテーマに変換する案を3つ出して」
- 「実現可能性の見積もりで、新人チームが見落としがちなコストは何?」
- 「価値と実現可能性のほかに、テーマ選定で考慮すべき軸はある?」
まとめ(5分)
今回学んだことを一言でまとめると、**「開発テーマは『入力→蓄積・加工→出力が揃った情報処理をともなうシステム』が前提で、価値と実現可能性の2軸で絞り込む」**ということです。
- 見分けの問い: 「何の情報を、ためて、どう加工して、誰に返すのか?」
- 活動・モノづくり系の課題も「それを支える情報管理」に捉え直せば該当しうる
- 狙いは「価値が高く、実働8日で作れる」本命ゾーン。大きすぎる課題は範囲を縮小する
次のセッションでは、いよいよこの物差しを使って、課題候補リストから「取り組む課題」と「開発テーマ」をチームで決定します。Day 1で決めた合意形成ルールの出番です。
🔄 振り返りチェック
以下の問いに答えられるか確認してみましょう:
- 「情報処理をともなうシステム」に該当する例を2つ、該当しない例を2つ挙げられますか?
- 該当・非該当を見分ける問いは何でしたか?
- 課題候補を絞り込む2つの評価軸は何ですか?
- 「価値は高いが実現可能性が低い課題」への対処法を説明できますか?
答えに自信がない場合は、該当部分を読み返すか、AIに質問してみてください。
補足資料
- 参考リンク: IPA「共通キャリア・スキルフレームワーク」、情報処理の入門解説(入力・処理・出力モデル)
- 発展課題: 自分の好きなサービスを1つ選び、「入力・蓄積・加工・出力」がそれぞれ何にあたるかを分解してAIに添削してもらいましょう
学習ガイド
このセクションは、受講者が理解を深めることをサポートする参考情報です。
想定される質問と回答例
| 質問 | ヒント |
|---|---|
| ゲームは情報処理をともなうシステム? | スコアやユーザー情報を蓄積・管理するなら該当しうる。ただし本PBLは「課題解決」が出発点。誰のどんな困りごとを解決するゲームかを説明できることが条件 |
| AIを使う機能を入れたい | AIも情報処理の一種なので問題ない。ただし「AIを使うこと」が目的化しないように。課題解決に必要かで判断する |
| 情報をためる量が少ないテーマはダメ? | 量より構造。数種類の情報(例: 会員・予約・履歴)が関係し合っていればDay 4以降の設計が成立する。1種類の情報を表示するだけだと厳しい |
| 2軸の評価は誰が判断するの? | チーム全員で。次のセッションで合意形成ルールに従って評価・決定する。このセッションでは物差しの使い方を理解すればOK |
つまずきやすいポイント
| つまずきポイント | ヒント |
|---|---|
| 「情報処理をともなう」の判定に自信が持てない | 「何の情報を・ためて・どう加工して・誰に返す」を文章にしてAIに見せ、「この説明で入力・蓄積・出力が揃っているか」を確認してもらう |
| 非該当の課題を捨ててしまう | 捨てる前に「この活動を支える情報管理」への変換を試す。良い課題ほど変換で生き返ることが多い |
| 実現可能性を楽観的に見積もる | 「画面数×機能数」を粗く数えてみる。画面10枚超なら黄信号。AIに「このテーマの最小構成は?」と聞いて削る |
| 評価軸を増やしすぎて決められなくなる | このPBLでは前提条件+2軸(価値・実現可能性)で十分。迷ったら「ペルソナの顔が浮かぶ方」を選ぶ |