情報設計の全体像と「良い課題」の条件
概要
- 日程: Day 2 / セッション 1
- 時間: [9:30-9:55]
- 形式: 座学
- ゴール: 情報設計の流れ(課題決定→テーマ決定→ペルソナ→CJM→情報定義→情報モデル)を順番に並べ、「良い課題」の前提条件(世の中でまだ解決されていない)を説明できる
- 学習形式: 対話型解説
導入(5分)
Day 1、お疲れさまでした。昨日はチーム計画書を作り、チームの土台ができましたね。
今日からいよいよ「何を作るか」を決めるフェーズに入ります。
ここで少し考えてみてください。家を建てるとき、いきなり柱を立て始める大工さんはいるでしょうか?
いませんよね。まず「誰が住むのか」「どんな暮らしをしたいのか」を聞き、設計図を描きます。システム開発も同じです。いきなりプログラムを書き始めるのではなく、まず「誰の・どんな課題を・どう解決するか」を設計します。これが情報設計です。
このセッションは、本研修のホール・パート・ホールの「ホール(全体)」にあたります。まず情報設計の全体地図を見て、今日がその入口であることを確認しましょう。
本編(15分)
1. 情報設計の流れ〜全体の地図を持つ
情報設計は、次の6つのステップで進みます。
それぞれのステップを一言で言うと、こうなります。
- 取り組む課題の決定: 世の中の「困った」を見つける(今日のセッション2と4)
- 開発テーマの決定: その課題をどんなシステムで解決するか決める(今日のセッション3と4)
- ペルソナの定義: 価値を届ける相手を、象徴的な人物像として描く(Day 3)
- カスタマージャーニーマップ(CJM)作成: その人の体験を時系列で描く。As-Is版(現在)とTo-Be版(理想)の2枚(Day 3)
- 情報定義書の作成: テーマに登場する情報を洗い出し、整理・分類する(Day 4)
- 情報モデル定義書の作成: 情報を処理の単位でまとめる(Day 4)
これは旅行の計画に例えると分かりやすいです。
- 課題の決定 =「なぜ旅に出るのか」を決める
- テーマの決定 =「どこへ行くか」を決める
- ペルソナとCJM =「誰と、どんな旅にしたいか」を描く
- 情報定義・情報モデル =「持ち物リストを作り、カバンごとに仕分ける」
行き先を決めずに持ち物を詰め始めたら、どうなるでしょうか? 海に行くのにスキー板を持っていくかもしれません。順番が大事なのです。
ここがポイント
- 情報設計は「課題→テーマ→ペルソナ→CJM→情報定義→情報モデル」の順で進む
- 各ステップは前のステップの成果物を入力にする(タスクの関係を常に意識する)
- 順番を飛ばすと後で必ずやり直しになる。「早く作りたい」気持ちをぐっとこらえる
- よくある間違い: いきなり「アプリの画面」から考え始めること。画面は情報設計が終わってから(Day 5以降)導かれるもの
コラム
「情報設計(Information Architecture)」という言葉を広めたのは、建築家のリチャード・ソール・ワーマンです。彼は1976年に「情報の建築家」という概念を提唱しました。建築家が「人がどう動くか」を考えて建物を設計するように、情報も「人がどう使うか」を考えて設計すべきだ、という発想です。ちなみに彼は、世界的講演イベント「TED」の創設者でもあります。プレゼンの祭典を作った人が情報設計の祖というのは、Day 18以降にプレゼンを学ぶ皆さんにとって、ちょっと縁を感じる話ですね。
2. 「良い課題」の条件〜世の中でまだ解決されていないこと
このPBLで取り組む課題には、大事な前提条件があります。
世の中でまだ解決されていない「課題」であること。
ここで少し考えてみてください。「友達と手軽に連絡を取りたい」は、良い課題でしょうか?
……これは該当しません。なぜなら、LINEをはじめとするメッセージアプリで、すでに十分解決されているからです。一方、「祖母がスマホの文字が小さくて家族グループの連絡を見落とす」はどうでしょう。既存アプリが取りこぼしている、まだ解決されていない課題の候補になりえます。
つまり「良い課題」とは、こういうものです。
- 誰かが本当に困っている(自分の思い込みではない)
- 既存のサービスでは解決されていない(または解決が不十分)
- 解決されたら嬉しい人が具体的に想像できる
逆に「課題っぽく見えて課題でないもの」に注意しましょう。
- 「○○なアプリがあったら面白そう」→ これはアイデアであって課題ではない。困っている人が出発点にない
- 「世界平和を実現したい」→ 課題は壮大すぎると手が出せない。22日間で向き合えるサイズに絞る
- 「既にあるサービスの真似」→ 解決済みの課題。学びはあるが、このPBLの前提条件から外れる
「課題が先、解決策が後」。この順番を覚えておいてください。
今日のDay 2では、この6ステップのうち最初の2つを決めます。
- セッション2: ブレストで課題候補を大量に出す(質より量)
- セッション3: 開発テーマの前提条件と評価軸を学ぶ
- セッション4: 「取り組む課題」と「開発テーマ」を決定する
つまり、いま立っているのは地図の入口。今日の終わりには、22日間の旅の行き先が決まります。
ここがポイント
- 前提条件は「世の中でまだ解決されていない課題」であること
- 課題とアイデアを混同しない。「誰が・何に困っているか」が言えなければ課題ではない
- 「まだ解決されていないか」はインターネットで検索して確かめる(類似サービスの調査)
- よくある間違い: 作りたいもの(解決策)を先に決めて、課題を後付けすること。後のペルソナ・CJM作成で必ず行き詰まる
コラム
「課題が先、解決策が後」を怠った有名な失敗例に、1980年代の「ニューコーク」があります。コカ・コーラ社は味覚テストの結果だけを信じて味を一新しましたが、消費者は「味」ではなく「いつものコークがある安心感」を求めていました。結果は歴史的な大不評で、わずか79日で旧来の味が復活。「顧客の本当の課題を見誤ると、世界一の企業でも転ぶ」という教訓として、今もマーケティングの教科書に載っています。逆に、任天堂のWiiは「ゲームが家族の邪魔者扱いされている」という課題から出発し、「家族で遊べるゲーム機」で大ヒットしました。同じ「製品を作る」でも、課題から出発したかどうかで結果は大きく変わるのです。
💬 AIに聞いてみよう
ここまでの内容で疑問があれば、AIに質問してみましょう。たとえば:
- 「情報設計の6つのステップを、料理に例えて説明して」
- 「『課題』と『アイデア』の違いを、別の例で説明して」
- 「『世の中でまだ解決されていない課題』って、本当にまだ残っているの? 例を3つ挙げて」
- 「既存サービスがあるのに成功した製品はある? その場合、何が『未解決』だったの?」
まとめ(5分)
今回学んだことを一言でまとめると、**「情報設計は課題から始まる旅であり、良い課題とは『世の中でまだ解決されていない、誰かの本当の困りごと』である」**ということです。
- 情報設計の流れ: 課題決定→テーマ決定→ペルソナ→CJM→情報定義→情報モデル
- 各ステップは前の成果物を入力にする
- 課題が先、解決策(アイデア)が後
次のセッションでは、AIをブレスト相手にして、課題候補をチームで20個以上洗い出します。全体地図の「入口」に、いよいよ足を踏み入れましょう。
🔄 振り返りチェック
以下の問いに答えられるか確認してみましょう:
- 情報設計の6つのステップを、順番どおりに言えますか?
- 「良い課題」の前提条件は何ですか?
- 「○○なアプリを作りたい」が課題として不適切なのは、なぜですか?
- 今日のDay 2では、6ステップのうちどこまでを決めますか?
答えに自信がない場合は、該当部分を読み返すか、AIに質問してみてください。
補足資料
- 参考リンク: リチャード・ソール・ワーマン『情報選択の時代』、IPA「ユーザビリティ・人間中心設計」関連資料
- 発展課題: 自分が日常で使っているアプリを1つ選び、「このアプリはどんな未解決課題から生まれたのか」をAIと一緒に推測してみましょう
学習ガイド
このセクションは、受講者が理解を深めることをサポートする参考情報です。
想定される質問と回答例
| 質問 | ヒント |
|---|---|
| 「まだ解決されていない課題」なんて自分たちに見つけられるの? | 世界初である必要はない。「特定の人にとって・特定の場面で」未解決なら十分。範囲を絞るほど見つけやすくなる |
| 既存サービスと少し似ていたらダメ? | 完全一致でなければ候補になる。「既存サービスは誰のどんな場面を取りこぼしているか」を説明できればよい |
| 課題とアイデアの違いがまだ曖昧 | 課題は「誰が・何に困っている」という形で書ける。アイデアは「〜を作る」という形になる。文の形で見分けられる |
| なぜ順番を守る必要があるの? | 各ステップの成果物が次の入力になるため。ペルソナがないとCJMが描けず、CJMがないと情報を洗い出せない |
つまずきやすいポイント
| つまずきポイント | ヒント |
|---|---|
| 全体像を覚えようとして暗記に走る | 暗記ではなく「旅行の計画」のような流れとして理解する。迷ったらこの資料の地図(Mermaid図)に戻る |
| 「良い課題」のハードルを高く感じて萎縮する | 完璧な課題は不要。次のセッションのブレストでは質より量。評価はセッション3・4で行う |
| 解決策(作りたいもの)が先に頭に浮かんでしまう | 浮かんでもOK。ただし「それは誰のどんな困りごとを解決する?」と自分に問い直して課題の形に変換する |