伝えたいことの決定とキャッチフレーズ作成
概要
- 日程: Day 18 / セッション 2
- 時間: [10:00-11:00]
- 形式: 実習
- ゴール: 製品の価値から伝えたいことを1〜3つ決め、それぞれを簡潔なキャッチフレーズとして時間内に書き出せる
- 学習形式: ハンズオン実習(AIブレスト)
導入(5分)
前のセッションで、プレゼン作成の手順を学びました。その最初のステップが「伝えたいことを1〜3つ決める」でしたね。
ここで問いかけです。
「みなさんの製品の価値を、たった10秒で説明できますか?」
エレベーターで偶然社長に会って、「君たちの製品、何がいいの?」と聞かれたとします。次の階に着くまでに答えられるでしょうか。これは「エレベーターピッチ」と呼ばれる有名な思考実験です。
10秒で答えられないなら、まだ価値が言葉になっていない証拠です。逆に、ここで作るキャッチフレーズが研ぎ澄まされていれば、プレゼン全体に背骨が通ります。
このセッションでは、AIをブレスト相手にして、みなさんの製品の「伝えたいこと」と「キャッチフレーズ」を作ります。
本編(10分)
1. 「誰の・何が・どう変わるのか」〜価値の言語化フレーム
伝えたいことを見つける最強のヒントは、すでにみなさんの手元にあります。**Day 3 で作ったペルソナと、カスタマージャーニーマップ(To-Be版)**です。
製品の価値は、次のフレームで言語化できます。
- 誰の: ペルソナは誰か
- 何が: どんな課題(ペイン)を抱えていたか(As-Is)
- どう変わるのか: 製品によってどんな状態になるか(To-Be)
たとえば料理アプリなら、「共働きで時間のない佐藤さん(誰の)の、献立を考える毎日のストレス(何が)が、冷蔵庫の写真1枚で献立が決まる体験に変わる(どう変わる)」となります。
ここで注意してほしいことがあります。「検索機能があります」「ログインできます」は伝えたいことに該当しません。それは機能の説明であって、価値ではないからです。一方「探す時間が10分の1になります」は該当します。ペルソナの変化を語っているかが判定基準です。
誰の"] --> B["課題・ペイン
何が (As-Is)"] B --> C["製品による変化
どう変わる (To-Be)"] C --> D["伝えたいこと
1〜3つ"] D --> E["キャッチフレーズ"]
ここがポイント
- 伝えたいことは「機能」ではなく「価値(ペルソナの変化)」で語る
- 迷ったら Day 3 の成果物(ペルソナ・CJM To-Be版)に立ち返る。22日間の成果物は鎖のようにつながっている
- よくある間違い: チームが頑張った点(技術的な工夫)を伝えたいことにする。正しくは聴衆とペルソナにとっての価値を選ぶ
コラム
世界的なコピーライティングの古典に「ドリルを買いに来た人が欲しいのは、ドリルではなく穴である」という言葉があります(マーケティング学者セオドア・レビットが広めた格言)。機能(ドリルの回転数)ではなく価値(きれいな穴)を語れ、という教えで、60年以上たった今も世界中のマーケターが引用しています。みなさんの製品の「穴」は何でしょうか?
2. キャッチフレーズの作り方〜短く、具体的に、意外性を
伝えたいことが決まったら、それを**簡潔な文章(キャッチフレーズ)**にします。
良いキャッチフレーズの条件は3つです。
- 短い: 一息で言える長さ(目安は20文字以内)
- 具体的: 数字や情景が浮かぶ
- 意外性: 「ん?」と振り向かせる引っかかりがある
対比で見てみましょう。「便利な献立支援システム」は短いですが、具体性も意外性もないので記憶に残りません。「捨てる前に、ひらめく。」なら、冷蔵庫の余り物という情景が浮かび、「捨てる」と「ひらめく」の組み合わせに意外性があります。
完璧を目指す必要はありません。このセッションのコツは量を出してから選ぶことです。ブレインストーミングの4原則(批判禁止・自由奔放・質より量・便乗歓迎)を、Day 2 以来ひさしぶりに使います。AIは疲れ知らずのコピーライターです。遠慮なく「あと10案」と注文しましょう。
ここがポイント
- キャッチフレーズは「選ぶ」もの。まず20案以上出してから絞る
- AIの案をそのまま採用しない。AIの案を「たたき台」にチームの言葉で磨く
- つまずきやすい点: 最初の1案に全員が飛びつく。必ず複数案を比較してから合意形成ルールで決める
コラム
日本の有名なキャッチコピー「そうだ 京都、行こう。」(JR東海)は、わずか10文字で旅情を喚起する傑作とされます。面白いのは、文法的には少し変な日本語であることです。「そうだ、京都に行こう」と正しく書くより、読点の位置を崩した方がリズムが生まれ、心に残る。キャッチフレーズの世界では「正しさ」より「残ること」が正義なのです。みなさんも文法委員にならず、声に出したときの気持ちよさで選んでみてください。
💬 AIに聞いてみよう
実習の前に、疑問があればAIに質問してみましょう。たとえば:
- 「機能と価値の違いを、別の製品を例に説明して」
- 「良いキャッチフレーズの条件をもっと詳しく教えて」
- 「有名な製品のキャッチコピーを5つ挙げて、何が優れているか分析して」
実習・演習(50分)
課題
チームで以下の手順を実施してください。
ステップ1: 価値の棚卸し(15分)
- Day 3 のペルソナとCJM(To-Be版)をチーム全員で開く
- 「誰の・何が・どう変わるのか」を埋める形で、製品の価値を箇条書きにする
- AIに製品概要とペルソナを伝え、「この製品の価値を10個挙げて」とブレストを依頼する
- 出てきた価値を見比べ、伝えたいことを1〜3つに絞る(Day 1 の合意形成ルールを使う)
ステップ2: キャッチフレーズのブレスト(20分)
- 伝えたいこと1つにつき、チームで自由に案を出す(批判禁止・質より量)
- AIにもキャッチフレーズ案を出させる。プロンプト例:
私たちの製品は「(製品概要)」です。
ペルソナは「(ペルソナの要約)」で、
伝えたいことは「(伝えたいこと)」です。
この価値を表すキャッチフレーズを、
トーンを変えて10案出してください。
(例: 情緒的な案、数字を使った案、問いかけ型の案)
- 合計20案以上を目標にする
ステップ3: 選定と磨き込み(15分)
- 候補を3〜5案に絞り、声に出して読み比べる
- 「短い・具体的・意外性」の3条件でチェックする
- 伝えたいことごとに1つ、キャッチフレーズを決定する
- AIに「このキャッチフレーズの弱点を指摘して」と依頼し、最終調整する
成果物
- 伝えたいこと(1〜3つ): それぞれ「誰の・何が・どう変わるのか」の形式で記述
- キャッチフレーズ(伝えたいことごとに1つ): 次セッションのプロット作成の入力になる
ヒント
- 伝えたいことが絞れないときは、AIに「ペルソナの〜さんが一番喜ぶのはどれだと思う?理由も教えて」と聞いてみましょう
- キャッチフレーズが平凡になるときは、AIに「もっと大胆に」「中学生にも刺さる言葉で」「数字を入れて」と注文を変えて再生成させましょう
- AIの案がしっくりこないときは、案の中の「単語」だけ借りて、チームで組み替えるのが近道です
- 行き詰まったら声に出して読むこと。耳で聞くと良し悪しが一瞬で分かります
まとめ(5分)
今回学んだことを一言でまとめると、**「製品の価値は『誰の・何が・どう変わるのか』で言語化し、量を出してから磨く」**です。
- 伝えたいことは機能ではなく価値。ペルソナとCJM(To-Be版)が出発点
- キャッチフレーズは「短い・具体的・意外性」。20案出して選ぶ
- AIは無限に案を出すコピーライター。ただし最終決定はチームの合意で
次のセッションでは、このキャッチフレーズを軸に、**プロット(ストーリー)とアウトライン(全体構成)**を作ります。いよいよプレゼンの設計図づくりです。
🔄 振り返りチェック
以下の問いに答えられるか確認してみましょう:
- 自チームの「伝えたいこと」を、「誰の・何が・どう変わるのか」の形で言えますか?
- なぜ「検索機能があります」は伝えたいことに該当しないのですか?
- 良いキャッチフレーズの3条件は何ですか?
- 決定したキャッチフレーズを、何も見ずに言えますか?
答えに自信がない場合は、該当部分を読み返すか、AIに質問してみてください。
補足資料
- 参考リンク: 「エレベーターピッチ」「バリュープロポジション」「キャッチコピー 作り方」で検索してみましょう
- 発展課題: 身の回りの製品(飲料・文房具など)のキャッチコピーを3つ集め、「誰の・何が・どう変わるのか」を逆算してみましょう
学習ガイド
このセクションは、受講者が理解を深めることをサポートする参考情報です。
想定される質問と回答例
| 質問 | ヒント |
|---|---|
| 伝えたいことは1つと3つ、どちらが良い? | 発表時間が短いほど少なく。迷ったら「核となる1つ+補強の2つ」の構造を提案する |
| キャッチフレーズは発表のどこで使うの? | 表紙・冒頭のつかみ・最後のまとめで繰り返し使う。ホールパート法の「ホール」を象徴する言葉になる |
| AIが出した案をそのまま使ってもいい? | 禁止ではないが、チームで声に出して全員が納得してから。自分の言葉でないフレーズは本番で噛む |
| 技術的な工夫もアピールしたい | 質疑応答や補足スライドで披露できる。メインメッセージはペルソナの価値に絞るのが効果的と伝える |
つまずきやすいポイント
| つまずきポイント | ヒント |
|---|---|
| 機能の列挙から抜け出せない | 各機能に「だから何?(So What?)」を3回繰り返すと価値に届く。AIに「この機能のSo Whatを深掘りして」と依頼してもよい |
| 案が10個も出ない | ブレスト4原則の「便乗歓迎」を使う。AIの案の一部を変えるだけでも1案。完全オリジナルを目指さない |
| 多数決でなんとなく決めてしまう | Day 1 のチーム計画書の合意形成ルールを開いて、その手順どおりに決める。決定理由を言語化しておくと発表でも使える |
| 時間内に終わらない | ステップごとの時間を計る係を決める。「質より量」のステップ2が延びがちなので、タイマー必須 |