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プレゼン手法〜ホールパート法とストーリー設計

概要

  • 日程: Day 18 / セッション 1
  • 時間: [9:30-10:00]
  • 形式: 座学
  • ゴール: プレゼン作成の手順(伝えたいこと決定→キャッチフレーズ→プロット→アウトライン→各ページ作成)と、ホールパート法(全体-部分-全体)・例え話・発問のテクニックを説明できる
  • 学習形式: 対話型解説、デモンストレーション

導入(5分)

おめでとうございます。昨日、みなさんの製品は完成しました。今日からは「作る」フェーズを卒業し、「伝える」フェーズに入ります。

ここで最初の問いかけです。
「どんなに良い製品でも、伝わらなければどうなるでしょうか?」

少し考えてみてください。答えはシンプルで、「存在しないのと同じ」になってしまいます。

  • 使ってもらえない製品は、課題を1つも解決できない
  • 価値が伝わらない企画は、上司やお客様の承認を得られない

逆に言えば、伝える力は製品の価値を何倍にもするレバーです。エンジニアの世界では「動くものを作れる人」は多くても、「その価値を伝えられる人」は意外と少ない。だからこそ、ここで差がつきます。

Day 21 の成果発表会まで、残り3日。今日はその第一歩として、プレゼン作成の「正しい手順」と「型」を手に入れます。料理にレシピがあるように、プレゼンにもレシピがあるのです。

本編(20分)

1. プレゼン作成の手順〜スライドからではなく「伝えたいこと」から

まず質問です。
「プレゼンを作るとき、最初にやることは何だと思いますか? PowerPointを開くこと?」

実は、いきなりスライドを作り始めるのは典型的な失敗パターンです。プレゼン作成には次の手順があります。

flowchart TD A["1. 伝えたいことを1〜3つ決める"] --> B["2. キャッチフレーズで書き出す"] B --> C["3. ストーリー(プロット)を決める"] C --> D["4. 全体構成(アウトライン)を作る"] D --> E["5. 各ページを作成する"]
手順 やること 例(料理アプリの場合)
1. 伝えたいこと メッセージを1〜3つに絞る 「冷蔵庫の余り物が献立になる」
2. キャッチフレーズ 簡潔な文章で書き出す 「捨てる前に、ひらめく。」
3. プロット 伝える順番・ストーリーを決める 困りごと→解決→デモ→未来
4. アウトライン スライドの構成(見出しの並び)を作る 全体像→課題→機能→デモ→まとめ
5. 各ページ作成 スライドを1枚ずつ作る (Day 19 で実施)

これは家を建てる手順と同じです。

  • 伝えたいこと = 「誰が住む家か」を決める
  • プロット・アウトライン = 設計図を描く
  • 各ページ作成 = 実際に建てる

設計図なしに家を建て始める大工さんはいませんよね。スライドから作り始めるのは、まさに「設計図なしの建築」です。

おや、この流れ、どこかで見覚えがありませんか? そう、みなさんが22日間やってきた「企画→設計→実装」と同じ構造です。プレゼン作りも小さなシステム開発なのです。

ここがポイント

  • 伝えたいことは1〜3つに絞る。10個伝えようとすると、0個しか伝わらない
  • スライド作成は手順の最後。今日(Day 18)はスライドを1枚も作らない日
  • よくある間違い: 「あれも見せたい、これも話したい」と全部盛りにする。正しくは「捨てる勇気」を持ち、メッセージを研ぎ澄ます

コラム

「伝えたいことを絞る」の極端な達人がスティーブ・ジョブズです。2007年の iPhone 発表では、あれだけ多機能な製品を「電話を再発明する(Reinvent the Phone)」というたった一言に集約しました。逆の失敗例としてよく挙がるのが、文字がぎっしり詰まったスライドを読み上げるだけのプレゼンで、聴衆は「読むか聞くか」の二択を迫られて結局どちらも頭に入りません。米軍では情報過多のスライドが意思決定を妨げるとして「PowerPoint は我々を愚かにする」と将軍が発言したことがニュースになったほどです。スライドは武器にも凶器にもなる、というわけです。

2. ホールパート法〜全体-部分-全体の魔法

プレゼンの構成の「型」として最も使いやすいのが**ホールパート法(Whole-Part-Whole)**です。

  • ホール(全体): 最初に結論・全体像を伝える「今日は3つの価値をお伝えします」
  • パート(部分): 詳細を1つずつ説明する「1つ目は〜。2つ目は〜」
  • ホール(全体): 最後にもう一度まとめる「以上、3つの価値をお伝えしました」
flowchart LR W1["ホール
全体像・結論"] --> P["パート
詳細を1つずつ"] P --> W2["ホール
まとめ・再強調"]

なぜこの型が効くのでしょうか。バスツアーに例えてみます。

  • 良いツアー: 出発前に「今日は3か所巡ります」と地図を見せる → 各地を案内 → 最後に「3か所巡りましたね」と振り返る
  • 悪いツアー: 行き先を告げずに走り出し、突然降ろされ、また走り出す

行き先が分からないバスに乗ると、人は不安になり、景色も頭に入りません。プレゼンも同じで、聴衆は「いま全体のどこにいるか」が分かると安心して聞けるのです。

ここで種明かしをしましょう。実は、この研修の各セッション自体がホールパート法で作られています

  • 導入で「今日はこれを学びます」と全体像を示す(ホール)
  • 本編でトピックを1つずつ説明する(パート)
  • まとめで「今日学んだことは〜です」と振り返る(まとめのホール)

さらに言えば、Day 1 のセッション1で見せた「22日間の地図」も研修全体のホールでした。みなさんは22日間、ホールパート法を浴び続けてきたのです。説明が分かりやすいと感じていたなら、それはこの型の効果です。今度はみなさんが使う番です。

ここがポイント

  • ホールパート法は「全体→部分→全体」。最初と最後に全体像を示す
  • 聴衆は先が見えると安心し、内容が記憶に残りやすくなる
  • つまずきやすい点: 最後の「ホール」を時間切れで省略してしまう。まとめこそ一番記憶に残る部分なので、必ず時間を確保する

コラム

「大事なことは3回言う」構造は古代ギリシャの弁論術にまで遡ります。アリストテレスの時代から「これから話すことを話し、それを話し、何を話したかを話せ」という格言が伝わっています。2000年以上たった現代でも、TED トークの多くがこの構造です。人間の脳のつくりが2000年で変わっていない以上、この型は今後も使い続けられるでしょう。みなさんが今日学ぶのは、いわば「2000年もののベストセラーの型」です。

3. 伝わるプレゼンの3つのテクニック〜例え話・発問・質問への対応

型に加えて、プレゼンを生き生きさせる3つのテクニックを紹介します。

テクニック1: 例え話

難しい概念は、聴衆が知っているものに例えます。

  • 「本システムはデータを正規化して管理しています」→ 技術者以外には伝わらない
  • 「本システムは、散らかった書類を整理棚に仕分けるように、データを管理しています」→ 誰にでも伝わる

この研修でも「設計はレシピ」「ペルソナは象徴的な人物像」など、例え話を多用してきました。気づいていましたか?

テクニック2: 発問

一方的に話すのではなく、聴衆に問いを投げます。

  • 「みなさんは、冷蔵庫の野菜を腐らせてしまった経験はありませんか?」

問いを投げられると、聴衆は頭の中で答えを探し始めます。つまり受け身の聞き手が、能動的な参加者に変わるのです。このセッションの冒頭でも問いかけをしましたが、あれも発問のデモンストレーションでした。

テクニック3: 質問への対応方法

発表後の質疑応答にも型があります。

  • 復唱する: 「〜というご質問ですね」と繰り返す。考える時間が生まれ、認識のずれも防げる
  • 結論から答える: 「はい、対応しています。理由は〜」の順で話す
  • 分からないときは正直に: 「現時点では未検証です。持ち帰って確認します」と答える。知ったかぶりは信頼を失う最短ルート

ここで考えてみてください。
「答えられない質問が来たとき、その場をごまかすのと正直に言うの、どちらが評価されるでしょうか?」

審査員や顧客は何百人も発表者を見てきています。ごまかしは必ず見抜かれます。「分かりません、確認します」と言える誠実さは、むしろ評価を上げるのです。

ここがポイント

  • 例え話は「聴衆が知っているもの」に置き換える。専門用語のまま話さない
  • 発問は聴衆を「参加者」に変えるスイッチ
  • 質問への対応は「復唱→結論→理由」。分からないことは正直に
  • よくある間違い: 質問に焦って早口で長々と答える。正しくは一呼吸おいて、結論から短く

コラム

「もんたメソッド」という言葉を明日学びますが、その由来であるテレビ司会者のみのもんた氏は、発問の達人でもありました。「奥さん、ご存じですか?」と問いかけてから情報を見せる話法で、視聴者を釘付けにしたのです。プレゼンのテクニックの多くは、実はテレビ番組・落語・紙芝居など「人を飽きさせない商売」から輸入されています。週末にバラエティ番組を見るときも「あ、いま発問した」「ここで間を取った」と分析してみると、無料のプレゼン教材になりますよ。

💬 AIに聞いてみよう

ここまでの内容で疑問があれば、AIに質問してみましょう。たとえば:

  • 「ホールパート法を使ったプレゼン構成の例を、別のテーマで作ってみせて」
  • 「伝えたいことを3つ以内に絞る理由を、認知心理学の観点から説明して」
  • 「PREP法やSDS法など、ホールパート法以外の構成の型と使い分けを教えて」
  • 「質疑応答で答えに詰まったときの切り抜け方を、例を挙げて教えて」

まとめ(5分)

今回学んだことを一言でまとめると、**「プレゼンは、伝えたいことを絞ってから、型(ホールパート法)に沿って組み立てる」**です。

  • 手順: 伝えたいこと(1〜3つ)→ キャッチフレーズ → プロット → アウトライン → 各ページ作成
  • 型: ホールパート法(全体-部分-全体)。この研修の全セッションがこの型でできていた
  • テクニック: 例え話・発問・質問への対応(復唱→結論→正直に)

次のセッションでは、いよいよ手順の最初のステップ、**「伝えたいことの決定とキャッチフレーズ作成」**を実習します。みなさんの製品の価値を、ペルソナとカスタマージャーニーマップに立ち返って言葉にしていきましょう。

🔄 振り返りチェック

以下の問いに答えられるか確認してみましょう:

  • プレゼン作成の5つの手順を順番に言えますか?
  • ホールパート法の「全体-部分-全体」とは、それぞれ何をすることですか?
  • なぜ伝えたいことは1〜3つに絞るべきなのですか?
  • 答えられない質問が来たとき、どう対応すべきですか?

答えに自信がない場合は、該当部分を読み返すか、AIに質問してみてください。

補足資料

  • 参考リンク: 「ホールパート法」「PREP法」「プレゼンテーション 構成」で検索してみましょう
  • 発展課題: 好きな製品発表(Apple、任天堂など)の動画を1本見て、「ホール」「パート」「発問」「例え話」がどこに使われているか分析してみましょう

学習ガイド

このセクションは、受講者が理解を深めることをサポートする参考情報です。

想定される質問と回答例

質問 ヒント
伝えたいことが4つ以上あって絞れない 「ペルソナが一番喜ぶのはどれか」で順位付けする。落とした内容は質疑応答や補足スライドで拾えると伝える
ホールパート法とPREP法はどう違う? PREP(結論→理由→例→結論)は1つの主張向きの小さな型、ホールパート法は発表全体の大きな型。入れ子で併用できる
発問して誰も反応しなかったら気まずいのでは? 挙手を求めない「心の中で考えてもらう発問」なら反応ゼロでも成立する。「〜な経験、ありませんか?」と投げて2秒置いて続ければよい
種明かしの意味がよく分からない この研修の各セッションが「導入(全体)→本編(部分)→まとめ(全体)」の構成だったことを、実際に過去の資料を開いて確認してもらう

つまずきやすいポイント

つまずきポイント ヒント
手順を聞いてもすぐスライドを作りたくなる 「設計図なしの建築」の例えに立ち返る。今日はスライド禁止デーと割り切る
ホールパート法を「最初に結論を言うだけ」と誤解する 最後のホール(まとめ)も必須。最初と最後の2回、全体を示すのが型
例え話が思いつかない AIに「〜を、ITに詳しくない人向けの例え話で説明して」と依頼すると候補が得られる
質疑応答が怖い 質問は攻撃ではなく興味の表れ。Day 19 セッション3で想定問答を準備するので、今は型だけ覚えればよい
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