情報定義書の作成
概要
- 日程: Day 4 / セッション 2
- 時間: [9:55-11:00]
- 形式: 実習
- ゴール: ペルソナとCJMを参照しながら開発テーマに登場する情報を30個以上列挙し、整理・分類して情報定義書を60分以内に作成できる
- 学習形式: ハンズオン実習(AIサポートあり)
導入(5分)
直前のセッションで「整理と分類」を学びました。今度は実際に手を動かします。
ここで大事なルールを1つ。前日の成果物(ペルソナとCJM)を必ず開いておくこと。情報の洗い出しは「鈴木花子さんの旅を支える情報は何か?」という問いから始まります。ペルソナとCJMを閉じたまま情報を出すと、必ず「使われない情報」が大量に出てきます。
このセッション終了時には、あなたのチームの開発テーマで「30個以上の情報が、5〜8個のカテゴリに整理・分類された情報定義書」が完成しています。明日からの設計の土台です。65分、集中していきましょう。
本編(15分)
1. 情報定義書とは何か
情報定義書とは、開発テーマで扱う全ての情報を洗い出し、整理・分類した一覧表です。
サンプル: 家計簿アプリの情報定義書(抜粋)
| カテゴリ | 情報項目 | 説明 | 由来(CJMタッチポイント) |
|---|---|---|---|
| ユーザー情報 | ユーザーID | システム内一意ID | アカウント登録時 |
| ユーザー情報 | 氏名 | 表示名 | アカウント登録時 |
| ユーザー情報 | メールアドレス | ログインID兼通知先 | アカウント登録時 |
| 収支記録 | 金額 | 円単位の整数 | 取引入力時・自動連携時 |
| 収支記録 | カテゴリ | 食費・交通費等 | 取引入力時 |
| 収支記録 | 日付 | 発生日 | 取引入力時 |
| 収支記録 | メモ | 自由入力 | 取引入力時 |
| 予算 | 月予算額 | カテゴリ別の上限 | 月初設定時 |
| 予算 | 通知閾値 | 80%等 | 月初設定時 |
「カテゴリ」「情報項目」「説明」「由来」の4列で書きます。由来列が大事: CJMのどのタッチポイントで使われるかを明示し、「使われない情報」を防ぎます。
2. 60分の進め方
20分"] --> S2["2. 整理
10分"] S2 --> S3["3. 分類
15分"] S3 --> S4["4. 仕上げ・確認
15分"]
| ステップ | 時間 | やること | 成果物 |
|---|---|---|---|
| 1. 洗い出し | 20分 | 30個以上の情報を出す | 情報リスト(カード/付箋) |
| 2. 整理 | 10分 | 不要なものを削除 | 整理済みリスト |
| 3. 分類 | 15分 | カテゴリにまとめる | 分類済みリスト |
| 4. 仕上げ・確認 | 15分 | 情報定義書として整え、漏れチェック | 情報定義書(完成版) |
3. AI協働パターン
パターンA: CJMのタッチポイントから情報を逆引き
あなたへの依頼:
私たちのCJM(To-Be版)の「月中」フェーズで、ペルソナ「鈴木花子26歳看護師」が
「予算到達の通知を受け取る」というタッチポイントがあります。
このタッチポイントを実現するために、システムが扱うべき情報を10個挙げてください。
パターンB: ペルソナ視点の情報チェック
私たちが洗い出した情報リストはこれです: [リスト貼り付け]
鈴木花子さんの視点で、抜けている情報はありませんか? 5個指摘してください。
パターンC: 整理判断のサポート
この情報リストから「開発テーマで本当に必要なもの」と「無くても困らないもの」を
分けてください。判断理由も簡潔に。
4. 洗い出しの観点リスト
行き詰まったら、次の観点で「他に必要な情報はないか?」と問います。
| 観点 | 例 |
|---|---|
| ペルソナ自身の情報 | 名前・年齢・連絡先・ログイン情報 |
| ペルソナの行動結果の情報 | 取引・予約・投稿・購入 |
| 時間・期間の情報 | 日時・期間・期限・履歴 |
| 場所・位置の情報 | 住所・座標・店舗 |
| 関係・つながりの情報 | 友人・家族・お気に入り |
| 状態・ステータスの情報 | 公開/非公開・完了/未完了・有効/無効 |
| 計測・評価の情報 | 数量・金額・評価点・回数 |
| メタ情報 | 作成日時・更新日時・作成者 |
この8観点を「網」のように使うと、漏れが激減します。
コラム — 銀行システムの情報定義書事例
実際の銀行システムの情報定義書がどれくらい大きいか、知っていますか? 大手銀行の勘定系システムでは、「顧客情報」だけで数百項目あります。
たとえば「メガバンクの口座開設情報」では、氏名・生年月日・住所・電話番号といった基本情報のほか、「マイナンバー」「外国PEPs(重要な公的地位にある者)該当チェック」「FATCA(米国納税義務)申告」など、法令や国際協定で要求される情報が大量に含まれます。
ここで重要なのは、**「全部必要だから残してある」のではなく、「目的(=ペルソナ・業務要件)から要求されているから残してある」**という点。「念のため取っておく」情報は、後の保守コスト・セキュリティリスクを増やします。
豆知識:GDPR(EU一般データ保護規則)以降、「データ最小化原則」が世界的に広まり、「目的に対して最小限の情報しか持たない」という思想が重要視されています。あなたたちが今日学ぶ「整理(捨てる)」は、実は法令対応の観点でも重要なのです。
💬 AIに聞いてみよう
- 「私たちのテーマ『〇〇』で、典型的に必要な情報を20個リストアップして」
- 「このリストにある情報のうち、ペルソナの旅で実際に使われないものは?」
- 「整理した情報リストを、5〜7個のカテゴリに分類するなら?」
- 「同じ情報の重複(別名で同じもの)がないかチェックして」
実習・演習(45分)
課題
開発テーマに登場する情報を30個以上洗い出し、整理・分類し、情報定義書を完成させる。
進め方
ステップ1: 洗い出し(20分)
- ペルソナとCJM(特にTo-Be版)を画面に開く
- CJMの各タッチポイントについて「ここで使う情報は?」とチームで列挙
- AIに観点リスト(8観点)で「他に必要な情報は?」と質問
- 出てきた情報を1件1カード(付箋・Miro・Markdown)に書き出す
- 目標30個以上。50個出ても問題なし
ステップ2: 整理(10分)
- 全カードを見渡し、「ペルソナの旅で使わない」「重複している」「テーマ外」を削除
- 削除に迷ったら、AIに「これは本当に不要?」と判断を相談
- 整理後も25個以上は残す(少なすぎる場合は洗い出しに戻る)
ステップ3: 分類(15分)
- オープン・カードソーティングで「似たもの同士」を集める
- グループに名前をつける(ユーザー情報・取引情報など)
- カテゴリ数は5〜8個に収める
- 「その他」カテゴリが出たら再分類
ステップ4: 仕上げ・確認(15分)
- 「カテゴリ・情報項目・説明・由来」の4列表に書き起こす
- CJMの各タッチポイントが「どの情報で支えられているか」確認
- AIに「タッチポイント◯◯に必要な情報が定義書にあるか?」と最終チェック
- チーム全員で読み合わせて完成宣言
成果物
情報定義書(Markdownテーブルまたは表計算1枚)。
# 情報定義書 - [開発テーマ名]
## カテゴリ一覧
1. ユーザー情報
2. 収支記録
3. 予算
4. 通知設定
5. 分析結果
## 詳細
### 1. ユーザー情報
| 情報項目 | 説明 | 由来(CJM) |
|---------|------|------------|
| ユーザーID | システム内一意ID | 認知フェーズ:アカウント登録 |
| 氏名 | 表示名 | 認知フェーズ:アカウント登録 |
...
### 2. 収支記録
...
ヒント
- 「30個」が出ない: ペルソナ視点の観点(家族・職場・時間帯)を変えて再ブレスト
- 重複が多い: 「顧客名」「ユーザ名」「会員名」のような同義語は1つに統一
- 粒度がバラバラ: 「住所」と「住所の郵便番号」を同列に書かない。階層化または統一
- カテゴリ命名で迷う: AIに「このグループのカードを見て、最適なカテゴリ名を5案出して」
- 時間が足りない: 洗い出しを少し早めに切り上げ、整理・分類を丁寧に
まとめ(5分)
完成お疲れさまでした。あなたのチームには今、開発テーマの「全体像」が表として手元にあります。30個以上の情報が、5〜8個のカテゴリに整理されている状態です。
10分後、休憩を挟んで(11:10〜)、次は「情報モデル」の座学です。情報定義書のカテゴリは、まだ「便宜的な分類」にすぎません。これを「処理の単位」=情報モデルに昇華させる作業が、午後の山場です。
ひと息ついて、コーヒーでも飲みながら、自分たちが作った情報定義書を眺めてみてください。「これだけのものを支えるシステムを作るんだ」というスケール感が湧いてくるはずです。
🔄 振り返りチェック
- 情報項目を30個以上洗い出せましたか?
- CJMのどのタッチポイントにも、対応する情報が定義書にありますか?
- カテゴリは5〜8個に収まっていますか?
- 「整理→分類」の順序を守って進められましたか?
補足資料
- 参考: 業務システムの情報定義書テンプレ(IPA: 情報処理推進機構)
- 参考書籍: 渡辺幸三『業務システムのための上流工程入門』
- 発展課題: 自社情報定義書を「将来の機能拡張」視点で見直し、追加すべき情報を1つ考える
学習ガイド
想定される質問と回答例
| 質問 | ヒント |
|---|---|
| 情報定義書とテーブル定義書は何が違う? | 情報定義書は「概念」、テーブル定義書は「実装」。粒度が違う |
| 「説明」列は埋めるべき? | 必須。3か月後の自分や新メンバーが見て分かる粒度で書く |
| 30個出ないテーマもある? | ほぼない。出ない場合はCJMの精度不足。CJMを見直す |
| カテゴリの順序に意味はある? | 業務上の優先度や時系列で並べると読みやすい |
| AIが出してくる情報を信用していい? | 必ずチームで判断。AIは「候補生成」が役割、「判断」は人間 |
つまずきやすいポイント
| つまずきポイント | ヒント |
|---|---|
| 同じ情報の別表現が混在 | 統一語彙表を作る(例: 顧客=ユーザ、商品=アイテム) |
| 「将来必要かも」で残しすぎ | YAGNI原則(You Aren't Gonna Need It)。今のテーマで使う分だけ |
| カテゴリが「画面名」になる | カテゴリは「情報の種類」。画面と1対1ではない |
| 由来列が空 | 由来が書けない情報は不要かも。CJMに立ち戻る |
| 抽象的すぎる情報項目 | 「情報」「データ」「内容」のような曖昧名は分割または具体化 |
| 進捗が遅い | 洗い出しは20分で打ち切る勇気。完璧より完了 |