ペルソナとカスタマージャーニーマップ
概要
- 日程: Day 3 / セッション 1
- 時間: [9:30-10:00]
- 形式: 座学
- ゴール: ペルソナの定義(価値を提供する相手を描き出した象徴的な人物像)と属性例を挙げ、As-Is版とTo-Be版のCJMの違いを説明できる
- 学習形式: 対話型解説、デモンストレーション
導入(5分)
昨日(Day2)、あなたのチームは「取り組む課題」と「開発テーマ」を決めました。よくここまで来ました。
ここで質問です。「あなたの製品は、誰のためのものですか?」
「20代の女性」「若い社会人」「忙しい人」と答えたくなるかもしれません。でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。「20代の女性」って、誰でしょう? 朝6時に出勤する看護師の鈴木さんも、平日昼間に学校に通う大学生の田中さんも、子育て真っ最中の山田さんも、全員「20代の女性」です。
「全員のため」に作ろうとすると、結局「誰のためでもないもの」が出来上がります。これを避けるための強力な道具が、今日学ぶ「ペルソナ」と「カスタマージャーニーマップ(以下CJM)」です。
今日のゴール:このセッション終わりに、あなたは「ペルソナとは何か」「As-IsとTo-Beのジャーニーがなぜ2枚必要か」を、隣の人に1分で説明できる状態になります。
本編(25分)
1. 情報設計の流れ — いま私たちはどこにいるか
まず地図を確認します。情報設計は次の流れで進みます。
| ステップ | やること | 完了日 |
|---|---|---|
| 課題決定 | 世の中で未解決の課題を選ぶ | Day2 |
| テーマ決定 | 情報処理を伴う開発テーマを選ぶ | Day2 |
| ペルソナ | 価値提供する相手を1人描く | 今日 |
| CJM | ペルソナの行動・思考・感情を時系列で描く | 今日 |
| 情報定義 | テーマに登場する情報を洗い出す | Day4 |
| 情報モデル | 処理単位で情報をまとめる | Day4 |
今日は「ペルソナ」と「CJM」の2ステップ。「誰に・何の価値を届けるか」を具体化する2日間です。
ここがポイント
情報設計は「下流(情報モデル)から考える」のではなく「上流(誰のために)から考える」順序で進めます。ペルソナが曖昧だと、その下流すべてが曖昧になります。
2. ペルソナとは — 「誰」を具体的に描き出す人物像
ペルソナとは、価値を提供する相手を想定し、描き出した象徴的な1人の人物像のことです。
ポイントは「象徴的な1人」。グループや層ではなく、1人の人間として描きます。
悪い例と良い例の対比
| 悪い例(ターゲット層) | 良い例(ペルソナ) |
|---|---|
| 20代女性 | 鈴木花子、26歳、看護師、独身、都内勤務、3交代制で生活リズムが不規則 |
| ビジネスパーソン | 田中健、42歳、IT企業課長、共働き、小学生の娘、健康診断で要再検査 |
| 若いユーザー | 山田翔太、19歳、大学2年生、一人暮らし、サークルでスマホ依存気味 |
左を見て「この人ならどう感じるか」を想像できますか? 「20代女性」では想像できません。「鈴木花子、26歳、3交代制看護師」なら、想像できます。これがペルソナの力です。
ペルソナの属性例
ペルソナを作るときは、次の項目を埋めます。多ければ多いほど解像度が上がります。
- 名前(フルネーム)
- 年齢
- 性別
- 居住地
- 仕事(職業・役職)
- 生活パターン(一日の流れ)
- 価値観(大切にしていること)
- 課題(困っていること)
- 家族構成
- 趣味や興味の対象
- インターネット使用状況
- よく使うデバイス・アプリ
最低でも10項目以上、できれば15項目以上を埋めましょう。明日の実習で実際に作ります。
ここがポイント
ペルソナは「実在しないが、実在しそうな人」が理想です。「実在しないからこそ、自由に設計できる」「実在しそうだからこそ、判断の指針になる」。この両立がペルソナの本質です。
コラム — ペルソナを発明した男 Alan Cooper
ペルソナという手法は、1980年代にAlan Cooper(アラン・クーパー)が考案しました。VisualBasicの父としても有名な人物です。
きっかけは、彼が開発したプロジェクト管理ソフトが「機能は豊富だが使いにくい」と評判だったこと。原因を探ったところ、「想定ユーザーが曖昧」と気づきました。
そこで彼は、知人のプロジェクトマネージャー「Kathy(キャシー)」を観察し、彼女をモデルに架空の人物像を作り上げ、設計の判断軸にしました。「キャシーならどう使う?」と問い続けた結果、ソフトの使いやすさが劇的に改善したのです。
これが「ペルソナ法」の誕生です。Cooperは著書『About Face』でこの手法を体系化し、現在では世界中のUX/IA設計で使われています。
豆知識:彼は「ターゲット層という言葉を聞くたびに、私は耳をふさぎたくなる」と語っています。あなたの製品の議論で「ターゲット層は…」と言いそうになったら、思い出してください。
3. カスタマージャーニーマップとは — ペルソナの旅を描く
ペルソナができたら、次は「そのペルソナがどんな旅をするか」を描きます。これがカスタマージャーニーマップ(CJM)です。
CJMは「ペルソナがある目的を達成するまでの、行動・思考・感情を時系列に並べた地図」です。
CJMの基本構造
横軸に「時系列のフェーズ」、縦軸に「行動・思考・感情」を並べます。感情は折れ線グラフ(笑顔↔泣き顔)で表現するのが定番です。
As-Is版とTo-Be版 — なぜ2枚必要か
CJMは2枚作ります。
| 版 | 描く内容 | 目的 |
|---|---|---|
| As-Is版 | ペルソナの「現在」の旅 | 課題(ペイン)がどこで発生するかを特定する |
| To-Be版 | 自分たちのシステム導入後の「理想の」旅 | システムがペインをどう解消し価値を生むかを描く |
たとえば「忙しい看護師の家計簿アプリ」の場合:
As-Is版(現状):鈴木さんの家計管理の旅
- 月初: 給料日にやる気→「今月こそ家計簿つける!」(笑顔)
- 月中: 残業続きで記録忘れる→「またさぼった…」(崩れ笑顔)
- 月末: クレカ明細見て驚く→「え、こんなに使ったの?」(泣き顔)
- 翌月: 諦めて元通り(無表情)
→ ペイン発生箇所:月中の「忙しくて記録できない」、月末の「いきなり驚く」
To-Be版(自社アプリ導入後):鈴木さんの新しい家計の旅
- 月初: アプリインストール→「自動連携してくれるなら続くかも」(期待の笑顔)
- 月中: 残業帰り→通知「今月の食費が予算の80%」→「気付けてよかった」(安心の笑顔)
- 月末: アプリで自動レポート→「今月は3万円浮いた」(達成の笑顔)
- 翌月: 継続→「来月の目標も立てよう」(前向きな笑顔)
→ 価値提供箇所:自動連携・予算通知・自動レポート
ここがポイント
2枚並べると「どこで・どんなペインを・どう解消するか」が一目瞭然になります。逆に言うと、As-Isでペインが見えない場所には、To-Beで価値を作っても意味がありません。「ペインのないところに製品は売れない」のです。
4. ペルソナ・CJMが「下流の設計」をどう導くか
ペルソナとCJMは、明日以降の情報定義・情報モデル・画面設計のすべての判断軸になります。
- 「この情報モデルは必要?」→「鈴木さんの旅で使う?」で判断
- 「画面はどっちが良い?」→「鈴木さんの月末タッチポイントで欲しい情報は?」で判断
- 「機能を削るとしたら?」→「鈴木さんが使わない機能から削る」で判断
ペルソナとCJMがあると、議論が「好み」ではなく「ペルソナにとっての価値」に集約されます。チーム内で意見が割れたときも、「鈴木さんならどうか?」で立ち戻れます。
💬 AIに聞いてみよう
ここまでの内容で疑問があれば、AIに質問してみましょう。
- 「私のチームのテーマは〜です。典型的なペルソナ案を3つ提案して」
- 「『20代女性』というターゲット層と、具体的なペルソナの違いを別の例で説明して」
- 「As-Is版とTo-Be版を1枚にまとめてはダメな理由は?」
- 「ペルソナを1人に絞ると、他のユーザーを切り捨てることにならない?」
まとめ(5分)
今日の30分で学んだのは、次の2つ。
- ペルソナ: 価値を提供する相手を「象徴的な1人」として描き出した人物像。「20代女性」ではなく「鈴木花子26歳看護師」。
- CJM: ペルソナの行動・思考・感情を時系列で描いた地図。As-Isでペインを特定し、To-Beで価値を描く2枚構成。
次のセッション(10:00-)では、いよいよ自分たちのチームのペルソナを作ります。今日の終わりには「鈴木花子さん」のような具体的な人物が、あなたのチームに1人誕生しています。
🔄 振り返りチェック
- ペルソナの属性例を5つ以上挙げられますか?
- 「ターゲット層」と「ペルソナ」の違いを、自分の言葉で説明できますか?
- As-Is版とTo-Be版のCJMがなぜ2枚必要なのか、説明できますか?
- 「ペインのないところに製品は売れない」とはどういう意味か、自分の言葉で言えますか?
補足資料
- 参考書籍: Alan Cooper『About Face 3 インタラクションデザインの極意』
- 参考書籍: 棚橋弘季『ペルソナ作って、それからどうするの?』
- 参考リンク: サービスデザインツールキット(Service Design Tools)
- 発展課題: 自分の使っているサービス(LINE、メルカリ等)のペルソナを推測してみる
学習ガイド
想定される質問と回答例
| 質問 | ヒント |
|---|---|
| ペルソナは1人で十分? | メイン1人+サブ1〜2人が理想。研修では時間制約から1人でOK |
| 実在人物をペルソナにしてもいい? | 個人情報の流用はNG。ただし「身近な人の特徴を借りる」のはOK |
| CJMのフェーズはいくつに分ければ良い? | 4〜7フェーズが標準。「認知→検討→利用→継続」の4段階を基本に調整 |
| ペルソナとCJMどっちを先に作る? | 必ずペルソナが先。CJMは「ペルソナの旅」なので、主人公がいないと描けない |
| As-Isを描く時点で自社サービスが世にないけど? | 「現状の代替手段」(手書き家計簿・Excel・諦め)を描く |
つまずきやすいポイント
| つまずきポイント | ヒント |
|---|---|
| ペルソナが「自分」になってしまう | 自分はバイアスが強い。あえて性別・年齢を変えてみる |
| ペルソナが抽象的(「健康に関心のある人」) | 「健康診断で要再検査の田中健42歳」のように固有名詞化 |
| To-Be版が「夢物語」になる | 自社のシステムでできる範囲に留める。魔法を使わない |
| As-Is版が「悪いことばかり」 | ペインだけでなく「ささやかな喜び」も描くとリアリティが出る |
| CJMの感情ラインがなだらかすぎる | ペインの瞬間は鋭く落とす。山と谷をつける |