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情報の整理と分類 LATCH法とカードソーティング

概要

  • 日程: Day 1 / セッション 7
  • 時間: [14:30-15:00]
  • 形式: 座学
  • ゴール: 身近なサービスを例に挙げながら(条件)、整理(捨てる)と分類(カテゴリ分け)の違いを一文ずつで説明でき(行動)、LATCH法の5つの軸を何も見ずに列挙し、各軸の使いどころを具体例つきで言える(基準)
  • 学習形式: 対話型解説

導入(5分)

今朝のセッション2を思い出してください。
散らかった20件の情報を、あなたは3〜5個のグループに分けました。
そして「探しやすくなった!」という手応えを得たはずです。

では質問です。あのときあなたは、何を根拠にグループを分けましたか?

多くの人は「なんとなく似ているものをまとめた」と答えます。
それで正解です。人間には分類の本能があります。
しかしプロは「なんとなく」を卒業し、名前のついた手法として分類を使いこなします。

このセッションでは、あの「なんとなく」に名前を与えます。
その名前が LATCH法カードソーティング です。

さらにその前に、多くの人が混同している2つの言葉、「整理」と「分類」をきっちり区別します。
次のセッション8では、この道具を使って自分の情報定義書を仕上げます。
道具の名前と使いどころを、ここで手に入れましょう。

本編(25分)

1. 整理と分類は別の作業 まず捨てる、それから分ける

「整理整頓しなさい」と言われて育った人は多いはずです。
しかしIAの世界では、「整理」と「分類」は明確に別の作業です。

  • 整理: 必要な情報を残し、不要な情報を捨てること
  • 分類: 残った情報をカテゴリに分けること

部屋の片付けに例えてみましょう。
散らかった部屋を前にして、いきなり収納ボックスを買いに走る人がいます。
これは失敗パターンです。ゴミごと収納してしまい、ボックスが何個あっても足りません。

正しい順番は、まず「捨てる」(整理)、それから「しまう場所を決める」(分類)です。
情報も同じです。整理してから分類する。この順番が鉄則です。

ここで少し考えてみてください。
「捨てる・捨てない」は何を基準に決めるのでしょうか?

答えは、今日の午後ずっと付き合ってきたあの人、ペルソナです。
ペルソナにとって価値のない情報は捨てる。価値のある情報は残す。
「もったいないから全部残す」は整理ではありません。それは先送りです。

コード例・実例

家計簿システムの情報定義書で「整理」と「分類」を対比してみます。

作業 判断基準
整理(捨てる) 「レシートの紙の色」を情報定義書から削除する ペルソナ(節約したい会社員)の価値にならない
整理(残す) 「支出のカテゴリ」を残す ペルソナが「何に使いすぎたか」を知る価値の源になる
分類(分ける) 「支出額」「支出日」「店名」を『支出の情報』グループにまとめる 意味のまとまりで探しやすくする

「情報定義書を五十音順に並べ替える」は分類には該当しますが、整理には該当しません。
なぜなら、1件も捨てていないからです。
逆に「使わない情報を10件消す」は整理ですが、分類ではありません。グループはまだできていません。

ここがポイント

  • 整理=捨てる、分類=カテゴリ分け。順番は必ず「整理→分類」
  • 捨てる基準はペルソナの価値。基準なしに捨てると、ただの気分になる
  • 「全部残す」は判断の放棄。捨てた記録を残しておけば、いつでも復活できる

コラム

トヨタの5Sも「整理」と「整頓」を区別している

製造業の現場改善で有名なトヨタの「5S」(整理・整頓・清掃・清潔・躾)でも、整理と整頓は別物です。整理は「要るものと要らないものを分け、要らないものを捨てる」、整頓は「要るものを、誰でもすぐ取り出せるように置き場を決める」。工場では「探し物をしている時間は1円も生まない」と言われます。ソフトウェアでも同じで、ユーザーが情報を探してさまよう時間は、1円の価値も生みません。IAの整理・分類は、いわば「情報の5S」です。

2. LATCH法 情報の並べ方は5つしかない

情報の分類には無限のやり方がありそうに見えます。
しかし、リチャード・ソール・ワーマンは大胆にこう言い切りました。
「情報の組織化の方法は5つしかない」。その頭文字を取ったのが LATCH法 です。

flowchart TD Q["情報をどう並べる?"] --> L["Location(位置)"] Q --> A["Alphabet(五十音・アルファベット順)"] Q --> T["Time(時間)"] Q --> C["Category(カテゴリ)"] Q --> H["Hierarchy(階層・連続量)"] L --> LE["例: 地図、駅の構内図、フロアガイド"] A --> AE["例: 辞書、電話帳、索引"] T --> TE["例: 時刻表、購入履歴、SNSのタイムライン"] C --> CE["例: スーパーの売場、ニュースのジャンル"] H --> HE["例: ランキング、価格の安い順、重要度順"]

それぞれの軸と使いどころを押さえましょう。

  • Location(位置): 場所で並べる。「どこ?」に答えたいとき。地図、フロアガイド
  • Alphabet(五十音順): 名前で並べる。名前が既に分かっているものを探すとき。辞書、電話帳
  • Time(時間): 時系列で並べる。順番や新しさが大事なとき。時刻表、購入履歴、ニュースフィード
  • Category(カテゴリ): 意味の類似で並べる。名前を知らずに「こんな感じのもの」を探すとき。スーパーの売場
  • Hierarchy(階層・連続量): 大小・強弱で並べる。比較して選びたいとき。ランキング、価格順

ここで発問です。あなたのスマホの連絡先アプリは、どの軸でしょうか?
五十音順ならA、最近連絡した順ならT。多くのアプリは複数の軸を切り替えられます。
つまりLATCHは「どれか1つを選んで終わり」ではなく、ペルソナの探し方に合わせて軸を選ぶ道具です。

逆の例も見ておきましょう。
「スーパーの商品を五十音順に並べる」は分類としては成立しますが、使いどころを外しています。
「あ行の棚」に小豆とアイスとアンチョビが並んでも、夕食の買い物客(ペルソナ)は困るだけです。
買い物客は「カレーの材料」という意味のまとまりで探すからです。だから売場はCategory軸なのです。

コード例・実例

同じ「支出データ」でも、選ぶ軸で別のサービスになります。

家計簿システムでの見せ方 答えられる問い
L 支払った店を地図上に表示 「どこでお金を使っている?」
A 店名を五十音順に一覧 「あの店、いくら使ったっけ?」
T 支出を日付順に一覧 「今週何に使った?」
C 食費・交通費・住居費で集計 「何に使いすぎている?」
H 支出額の大きい順に表示 「一番の出費はどれ?」

どの軸が正解かは、データだけを見ても決まりません。ペルソナの問いが決めます。

ここがポイント

  • LATCH=Location・Alphabet・Time・Category・Hierarchyの5軸。まず全部言えるようにする
  • Alphabetは「名前を知っている人」専用。名前を知らない人にはCategoryを使う
  • 軸の選択基準はペルソナの探し方。「このペルソナはどう探す?」と自問する。迷ったらAIに「この情報一覧を5軸それぞれで並べたらどうなる?」と聞いてみましょう

コラム

LATCHの父はTEDの父

LATCH法の提唱者リチャード・ソール・ワーマンは、建築家出身で、自らを「Information Architect(情報建築家)」と名乗った最初の人物です。著書『情報選択の時代(Information Anxiety)』で「情報の組織化は5つしかない」と説きました。そして彼にはもう一つ大きな肩書きがあります。あのTEDカンファレンスの創設者(1984年)です。「価値ある情報を、聴衆が受け取りやすい形で18分に整理して届ける」というTEDの形式そのものが、彼のIA思想の実践だと言われます。みなさんが観たことのあるTEDトークも、LATCHの生みの親の遺産なのです。

3. 「見出し」とカードソーティング 分類を形にする技法

分類してできたグループには名前を付けます。この名前が 「見出し」 です。
見出しとは、情報を抽象的に捉えた際の情報。つまり「情報についての情報」です。

「食費」という見出しは、ランチ代・食材費・カフェ代という具体的な情報を抽象化したものです。
新聞の見出しが記事全体を一言で表すように、良い見出しはグループの中身を見なくても中身を予想させます。

その見出しを作る実践技法が カードソーティング です。
情報を1件1枚のカードに書き、机の上(またはツール上)で並べ替えてグループを作ります。
やり方は2種類あります。

  • オープンカードソーティング: 見出しを受講者(参加者)が自由に作る。どんな分類が自然かを発見したいときに使う
  • クローズドカードソーティング: 用意された見出しにカードを割り当てる。既存の分類が妥当かを検証したいときに使う

たとえるなら、オープンは「白地図に自分で国境線を引く」、クローズドは「既にある国境線に都市を配置していく」作業です。
新しいサービスをゼロから考えるならオープン、既存サイトのメニューを改善するならクローズドが定石です。

なお、分類を助ける手法はカードソーティングだけではありません。

  • データマイニング: 大量のデータから統計的にパターンや相関を掘り出す技術
  • QC7つ道具: 品質管理で使う分析図法群(パレート図・特性要因図など)。層別=分類の道具が含まれる

今回は名前だけ覚えれば十分です。興味があればAIに「QC7つ道具を家計簿のデータで使うと何ができる?」と聞いてみましょう。

コード例・実例

家計簿システムでのオープン/クローズドの対比です。

  • オープン: 20枚の情報カードを前に、自分で「収入」「支出」「振り返り」という見出しを発明する
  • クローズド: AIに出してもらった見出し案「記録」「集計」「設定」に、20枚のカードを割り当てて検証する

「AIが作った分類をそのまま採用する」のはクローズドの悪い使い方です。
割り当ててみて「どこにも入らないカード」が出たら、それは見出し側の欠陥のサイン。オープンに戻って見出しを作り直します。

ここがポイント

  • 見出し=情報を抽象的に捉えた情報。グループの中身を予告する看板
  • オープン=見出しを作る(発見)、クローズド=見出しに当てはめる(検証)。目的で使い分ける
  • 次のセッション8では、まずオープンで自分の見出しを作り、AIの案とぶつけて検証する

コラム

図書館の主、メルヴィル・デューイ

世界中の図書館で使われる「デューイ十進分類法」(日本の日本十進分類法の源流)は、1876年にメルヴィル・デューイが考案しました。全ての知識を000〜999の数字に分類するという壮大なクローズドカードソーティングです。デューイは大の効率マニアで、自分の名前の綴りまで「Melville」から「Melvil」に短縮し、一時は姓も「Dui」と綴ろうとしたほどでした。彼の分類法は140年以上たった今も現役ですが、「コンピュータ科学」が000番台(総記)に押し込まれているのは、1876年にはコンピュータが存在しなかったから。分類は作られた時代のドメイン知識を反映するという生きた教訓です。

4. 事例と課題 分類は一発では決まらない

最後に、情報の整理・分類の奥行きを事例で確認します。

フレーム問題とディープラーニング
AI研究には「フレーム問題」という難問があります。ある行動に関係する情報だけを選び出そうとすると、「関係あるか?」の判定が無限に続いてしまう問題です。人間が無意識にやっている「整理(捨てる)」は、実は計算機には極めて難しい。逆にディープラーニングの本質は、大量のデータから「分類に効く特徴」を機械が自ら見つけることです。整理と分類は、AI時代の最先端テーマでもあります。

甲骨文字とSECIモデル
古代中国では、亀の甲羅のひび割れ(占いの結果)に文字を刻んで記録しました。
頭の中の暗黙知を文字という形式知にし、それを読んでまた解釈し直す。
午後のセッション3で学んだSECIモデルの「暗黙知と形式知の反復」を、人類は3000年以上前からやっていたわけです。
そして大事なのはここです。
「情報の定義→価値の確認→再定義→価値の確認」を繰り返して、価値ある情報の定義を完遂する
。一発で完成させようとしないことが、古代からの知恵です。

では、整理・分類でぶつかる課題と解決策を対応させておきます。

課題 解決方法
重要度の重み付けができない(どれも大事に見える) 的確なペルソナを定義する(価値の判定者を決める)
こうもり問題(1つの情報が複数のカテゴリに入る) 要件を定義する(このシステムでは何の目的で扱うかを決める)

セッション6のこうもり問題が、ここで「分類の実務」と繋がりました。
そしてもう一つ、整理・分類に不可欠なのが**ドメイン知識(業務知識)**です。
家計簿なら家計の知識、レシピサービスなら料理の知識。対象領域を知らずに分類はできません。
知らない領域はAIに聞いて補いましょう。「家計簿で一般的な支出カテゴリを教えて」の一言で、ドメイン知識の入口に立てます。

関係する分野も名前だけ紹介します。

  • 図書館情報学: 分類と検索の学問。デューイ以来の蓄積がある
  • パターンランゲージ: 建築家アレグザンダーが提唱した、良い設計の型に名前を付けて共有する手法
  • ゲシュタルト心理学: 人間が「近いもの・似たものをまとまり」として知覚する法則の研究

コード例・実例

こうもり問題の実例を、家計簿システムで確認します。
「コンビニでの支払い 800円(おにぎりと雑誌)」という情報は、食費でしょうか、教養費でしょうか。
分類できずに手が止まったら、要件に立ち返ります。
「ペルソナは食費の使いすぎを知りたい」という要件なら、食品と雑誌を分けて記録できる情報構造が必要だ、と再定義が起きます。
分類の失敗は、情報定義の改善チャンスなのです。

ここがポイント

  • 分類で手が止まる原因は2つ。重み付けの迷い→ペルソナで解決、こうもり問題→要件定義で解決
  • 「定義→価値の確認→再定義→価値の確認」の繰り返しが前提。一発で決めようとしない
  • ドメイン知識が足りないと感じたら、AIに聞いて補う。それもAI協働のうち

コラム

亀の甲羅は3000年前のデータベース

甲骨文字の「甲骨」とは、亀の腹甲と牛の肩甲骨のことです。殷王朝の人々は骨に熱を加え、ひび割れの形で吉凶を占い、その問いと結果を骨に刻んで保管しました。発掘された甲骨は約15万片。しかも「戦争」「収穫」「天候」といった主題ごとに定型化された書式で刻まれていたことが分かっています。つまり彼らは、占いの記録を整理・分類して蓄積し、後から参照できるようにしていたのです。1899年、学者の王懿栄が「漢方薬の材料(竜骨)」として売られていた骨の文字に気づかなければ、この古代のデータベースは薬として全部飲まれていたかもしれません。

💬 AIに聞いてみよう

  • 「LATCH法の5つの軸それぞれについて、私の開発テーマ『(自分のテーマ)』で使うとしたらどんな画面になるか、例を挙げてください」
  • 「オープンカードソーティングとクローズドカードソーティングは、どんな場面でどちらを選ぶべきですか? Webサイト制作の実例で教えてください」
  • 「『整理と分類の違いを説明して』と私に出題して、私の答えの抜けを指摘してください」

まとめ(5分)

今回学んだことを一言でまとめると「整理(捨てる)→分類(カテゴリ分け)の順で進め、分類の軸はLATCHの5つから、ペルソナの探し方に合わせて選ぶ」です。

  • 整理=不要な情報を捨てる。分類=カテゴリに分ける。順番は整理が先
  • LATCH=Location・Alphabet・Time・Category・Hierarchy。軸の数だけ見せ方がある
  • 見出しは「情報を抽象的に捉えた情報」。カードソーティングはオープン(作る)とクローズド(検証する)
  • 課題への処方箋: 重み付けの迷いにはペルソナ、こうもり問題には要件定義
  • 「定義→価値の確認→再定義」の繰り返しで完成度を上げる

次のセッション8は、Day 1の総仕上げです。
あなたの情報定義書とペルソナを机に並べ、今日習った道具を全部使って「整理分類済み情報定義書」を完成させます。
道具は揃いました。あとは使うだけです。

🔄 振り返りチェック

  • 「整理」と「分類」の違いを、部屋の片付け以外の自分のたとえで説明できますか?
  • LATCHの5軸を何も見ずに列挙し、それぞれ身近な例を1つずつ挙げられますか?
  • オープンとクローズドのカードソーティングは、それぞれどんな目的のときに使いますか?

補足資料

  • 参考リンク:
  • 発展課題:
    • 普段使うアプリを3つ選び、メイン画面がLATCHのどの軸で情報を並べているか分析してみましょう
    • ゲシュタルト心理学の「近接・類同・閉合」の法則を調べ、スーパーの売場やWebサイトのどこに使われているか探してみましょう

学習ガイド

想定される質問と回答例

質問 ヒント
CategoryとHierarchyの違いが分かりにくい Categoryは「種類」で分ける(食費か交通費か)。Hierarchyは「量や順位」で並べる(金額の大きい順)。前者は横並び、後者は上下・大小の関係がある
LATCHの軸は1つしか選べないのか 選べる軸は複数あってよい。多くのサービスは「並べ替え」機能で軸を切り替えられる。ただし「ペルソナが最初に見る並び」は1つ決める必要がある
見出しと情報の違いは何か 見出しも情報の一種だが、抽象度が1段高い。「食費」は「ランチ代600円」を抽象化した情報。見出しだけ見て中身が予想できれば良い見出し
データマイニングやQC7つ道具は覚えるべきか 本研修では名前と役割だけで十分。分類を助ける道具が他にもあると知っていれば、必要になったときAIに聞いて深掘りできる

つまずきやすいポイント

つまずきポイント ヒント
整理(捨てる)を飛ばして、いきなり分類を始めてしまう 順番は必ず整理→分類。不要な情報が混ざったまま分類すると、カテゴリがゴミ箱化する。まず「ペルソナに価値があるか」で捨てる
LATCHの5軸を暗記しようとして、使いどころが頭に入らない 軸ごとに身近な代表例(地図・辞書・時刻表・スーパー・ランキング)とセットで覚える。例が言えれば使いどころは自然に説明できる
「どの軸が正解か」を情報だけ見て決めようとする 正解はデータの中ではなくペルソナの探し方の中にある。「このペルソナはどう探す?」と問い直すと軸が決まる
こうもり問題(複数カテゴリに入る情報)で手が止まる 止まったら要件に立ち返る。「このシステムでは何の目的でこの情報を扱うか」を決めれば所属が決まる。決められなければ情報の再定義のサイン
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