情報定義書の作成
概要
- 日程: Day 1 / セッション 04
- 時間: [10:40-11:25]
- 形式: 実習(最初の成功体験)
- ゴール: チームの開発テーマで登場する情報を15個以上洗い出し、情報定義書(初版)を1枚の表形式で作成できる
- 学習形式: ハンズオン実習(AIブレストあり)
導入(5分)
前のセッションで、IAは「誰に、何の価値を提供するかを構造化する」技術だと学びました。ここからは手を動かす時間です。皆さんのチームの開発テーマで「実際にどんな情報が登場するか」を洗い出します。
これがDay 1の最初の「動いた!」を体感する瞬間です。45分後、皆さんは「情報定義書」という具体的な成果物を手にしています。これは、Day 1の最後、Day 2、Day 3、Day 4まで、すべての作業の土台になる重要な一枚です。
ここで考えてみてください。家計簿アプリを作るとしたら、登場する情報は何個ぐらいあると思いますか?「収入」「支出」だけ?それとも100個以上?ヒントは「ペルソナの一日の中で、画面に現れる可能性のあるものすべて」です。
本編(10分)
1. 情報定義書とは何か
情報定義書は「このアプリで扱う情報を、すべて表に書き出したもの」です。形式はシンプルで、3〜5列の表です。
最小構成は次の3列です。
| 番号 | 情報名 | 説明 |
|---|---|---|
| 1 | 収入 | ユーザーが受け取ったお金。日付・金額・出所を持つ |
| 2 | 支出 | ユーザーが使ったお金。日付・金額・カテゴリを持つ |
| 3 | カテゴリ | 支出を分類する区分。食費・交通費・娯楽費など |
これだけです。難しくありません。しかし、これが後の全工程の土台になります。
「情報定義書 = アプリで扱うすべての情報の目録」と覚えてください。料理で例えると、レシピの「材料リスト」です。材料が揃わないと料理は始まりません。同様に、情報定義書がないと設計は始まりません。
ここがポイント
最初は「機能」と「情報」を混同しがちです。「ログインする」は機能、「ユーザー名」は情報。「グラフを表示する」は機能、「月別集計」は情報。動詞っぽいものは機能、名詞っぽいものは情報、と覚えると整理しやすいです。
コラム
情報定義書は、データベース設計の「エンティティ抽出」と似ています。しかし、IAの情報定義書はDB設計より広い範囲を扱います。「画面に表示する情報」「ユーザーが入力する情報」「内部で計算する情報」すべてが対象です。データベースに保存しない情報(例: 「現在時刻」「セッションID」)も含めます。
2. ブレストで「とにかく出す」
情報定義書の作り方は2段階です。第1段階はブレスト(とにかく出す)、第2段階は清書(整理する)。今回はまずブレストです。
ブレストの鉄則は3つあります。
1つ目は「質より量」。15個目標、目指せ30個。少ないほど後で困ります。
2つ目は「批判しない」。「これは違うかも」を一旦保留。後で消せばOK。
3つ目は「他人のアイデアに乗る」。「収入」が出たら「収入の出所」「収入の振込日」と派生させる。
ブレストの進め方の例(家計簿の場合):
「家計簿を開く」と何が画面に出る?→ 「今月の残額」「支出グラフ」「最近の取引一覧」
「収入を入力する」時、何を入れる?→ 「金額」「日付」「出所」「メモ」
「支出を入力する」時、何を入れる?→ 「金額」「日付」「カテゴリ」「店名」「メモ」「写真(レシート)」
「過去を振り返る」時、何が見たい?→ 「月別集計」「カテゴリ別グラフ」「前月比」「予算達成率」
これだけで15個を超えます。
3. AIをブレストパートナーに
15個出すのが難しい場合、AIに手伝ってもらいましょう。
良い聞き方:「私たちは家計簿アプリを作ります。ペルソナは『1人暮らしの新社会人』です。このアプリで扱う情報を20個ブレストしてください。情報名と1行の説明だけでOKです。」
良い聞き方(続き):「他に、見落としがちな情報を5個追加してください。たとえば『予算』『定期支出』『通知設定』など、運用に必要なものも含めて。」
AIから20個出てきたら、チームで「これは入れる」「これは外す」と取捨選択してください。AIの出力を鵜呑みにしないこと。チームの判断が最優先です。
💬 AIに聞いてみよう
ここまでの内容で疑問があれば、AIに質問してみましょう。たとえば:
- 「私のチームのテーマは〜です。扱う情報を20個提案して」
- 「『機能』と『情報』の区別が曖昧です。例で説明して」
- 「情報定義書とER図は何が違いますか?」
実習・演習(30分)
課題
ブレストフェーズ(15分)
- チームで、自分のテーマで扱う情報をホワイトボード(または共有メモ、Miro/FigJam等)に書き出す
- AIにも10個以上提案してもらう
- 重複を消さず、とにかく多く出す(目標30個以上)
清書フェーズ(15分)
- 出した情報を、表形式(番号、情報名、説明)に整理する
- 重複を統合し、明らかに不要なものを削除する
- 最終的に15個以上残るようにする
成果物
「情報定義書 v1」と題した表。Markdownの表形式でOK。最低15行、各行が1つの情報を表す。
例(家計簿の場合):
| 番号 | 情報名 | 説明 |
|------|--------|------|
| 1 | ユーザー | アプリを使う本人。名前・年齢などを持つ |
| 2 | 収入 | 受け取ったお金。金額・日付・出所 |
| 3 | 支出 | 使ったお金。金額・日付・カテゴリ・店名 |
| 4 | カテゴリ | 支出の分類。食費・交通費・娯楽費など |
| 5 | 予算 | 月ごと・カテゴリごとの上限額 |
| ... | ... | ... |
ヒント
15個出ない場合のチェックポイント:
- 「ユーザー自身」を情報として入れていますか?
- 「設定」「履歴」「通知」など、補助的な情報を入れていますか?
- 「集計」「グラフ」「ランキング」など、加工された情報を入れていますか?
エラーが出たら(うまくいかない場合):「私たちのテーマは〜で、今〜個出ています。あと〜個、見落としがちな情報を提案してください」とAIに聞くと突破口になります。
「機能」が混じってしまった時:「ログイン」「保存」「削除」など動詞は外す。「ログインユーザー」「保存履歴」「削除済みアイテム」のように名詞化できるものは情報として残してOK。
まとめ(5分)
今回はチームの開発テーマで「扱う情報」を15個以上洗い出し、情報定義書(初版)を作りました。これがDay 1〜Day 4のすべての作業の土台になります。
ここで重要な気づきは「情報を出すだけでも、こんなに考えることがある」ということ。実際の開発では、この洗い出しが甘いと「あとから情報が増えて設計を作り直し」という悲劇が起きます。
次のセッションでは「情報の特性」を学びます。今出した情報の中には「価値があるもの」「見えにくいもの」「複数の意味を持つもの」が混ざっています。それを意識する目を養います。
🔄 振り返りチェック
- 自分のチームの情報定義書は15個以上ありますか?
- 「機能」が混ざっていませんか?すべて名詞ですか?
- 説明列に「誰の・何の・どんな」が書かれていますか?
補足資料
- 参考リンク: ER図、DOA(データ中心アプローチ)、ドメイン駆動設計の「ユビキタス言語」
- 発展課題: 1番似ている既存サービスの情報定義書を推測して作ってみる
学習ガイド
想定される質問と回答例
| 質問 | ヒント |
|---|---|
| 30個出してしまった。多すぎる? | 多い分には問題なし。後で統合・削除すればOK。むしろ網羅性が高い証拠 |
| 似た情報があってどう書けばいいか | 例:「収入」と「給料」→「収入」に統合し、説明に「給料・副業・お小遣いなど」と書く |
| 情報の粒度が揃わない | OK。今は揃わなくて大丈夫。次回のセッションで分類しながら整える |
つまずきやすいポイント
| つまずきポイント | ヒント |
|---|---|
| 機能ばかり書いてしまう | 「動詞→名詞化」をする。例:「集計する」→「月別集計」 |
| 15個も思いつかない | AIに「ペルソナの一日のシナリオで登場する情報を挙げて」と聞く |
| 説明が「収入は収入」のような循環になる | 「誰の・何の・どんな属性を持つか」を意識する |