散らかった情報を整理してみる
概要
- 日程: Day 1 / セッション 2
- 時間: [9:30-10:15]
- 形式: 実習
- ゴール: 与えられた散らかった情報20件を、根拠を添えて3〜5グループに分類し、「探しやすくなった」状態をビフォーアフターで示せる
- 学習形式: ハンズオン実習(AIサポートあり)
導入(5分)
前のセッションで、IAは「情報をわかりやすく伝え、探しやすくする表現技術」だと学びました。
でも、言葉で聞いただけでは半分も伝わりません。理屈より先に、手を動かしましょう。
質問です。初めて入ったカフェで、メニューが順不同にズラッと20行並んでいたら、どう感じますか?
「アイスの飲み物だけ見たいのに…」とイライラしませんか。
このセッションでは、実在しそうな「散らかった情報20件」をあなたの手で整理してもらいます。
45分後、あなたは「情報は、並べ替えるだけで価値が上がる」ことを自分の成果物で証明しているはずです。
これは4日間の「具体→抽象」の具体にあたる体験です。難しい用語は一切不要。さっそく始めましょう。
本編(15分)
1. 「散らかっている」とはどういう状態か
まず、今日の素材を見てください。架空のカフェ「Cafe MIGI」の新人店員になったつもりで読んでください。
店長から「このメモがうちの全メニューだ。お客様が見やすいメニュー表にしといて」と渡されました。
- ホットコーヒー 400円
- 抹茶ケーキ 480円
- BLTサンド 650円
- アイスカフェラテ 520円
- かき氷(夏季限定) 600円
- チーズケーキ 500円
- オレンジジュース 450円
- 日替わりパスタ 900円
- ホットチョコレート(冬季限定) 500円
- たまごサンド 550円
- アイスコーヒー 420円
- 季節のスムージー 600円
- カレーライス 850円
- クロワッサン 300円
- カフェラテ(ホット) 500円
- チョコレートブラウニー 450円
- アイスティー 420円
- ソフトクリーム 400円
- 抹茶ラテ 550円
- モーニングセット(トースト+ゆでたまご+コーヒー、11時まで) 600円
このリスト、1件1件の情報は正確です。嘘も抜け漏れもありません。
それでも「アイスの飲み物は?」「500円以下の甘いものは?」と聞かれると、目が上下に泳ぎます。
つまり「散らかっている」とは、情報が間違っている状態ではなく、探す人の目的に沿った構造がない状態です。
逆に、五十音順に並んでいれば散らかっていないかというと、そうとも言えません。「アイスの飲み物」は五十音順では見つけにくいままです。並んでいること(整列)と、探しやすいこと(構造)は別物です。
コード例・実例
プログラミングでも同じことが起きます。変数が20個ベタ置きされたコードと、構造化されたコードの違いです。
// 散らかった状態(すべて正確、でも探しにくい)
const hotCoffee = 400; const matchaCake = 480; const bltSand = 650; // ...延々と20個
// 構造がある状態(分類=オブジェクトの入れ子)
const menu = {
drinks: { hot: { coffee: 400, cafeLatte: 500 }, ice: { coffee: 420, cafeLatte: 520 } },
foods: { sandwiches: { blt: 650, egg: 550 }, meals: { pasta: 900, curry: 850 } },
sweets: { matchaCake: 480, cheeseCake: 500 }
};
情報の中身は同じでも、構造があると「drinksのice配下を見る」という探し方ができます。
ここがポイント
- 「散らかっている」=情報が不正確、ではない。探す人向けの構造がないこと
- 整列(ただ並べる)と構造化(分類して見出しをつける)は別物
- この20件が今日の実習素材。まだ分類を始めなくてよい(実習セクションで行う)
コラム
スーパーマーケットの陳列は、身近で強力な情報アーキテクチャです。牛乳や卵などの定番品がなぜ店の奥にあるか知っていますか? お客様に売り場を長く歩かせ、途中の棚との「偶然の出会い」を作るためです。逆にレジ横のガムや電池は「思い出し買い」狙い。つまりスーパーの棚は五十音順でも入荷順でもなく、来店者の行動という軸で設計されています。あなたが今日決める「分類の軸」も、これと同じ種類の意思決定です。
2. 分類とは「軸」を決めること 正解は1つではない
さて、この20件をどう分けましょうか。ここで少し考えてみてください。
あなたが最初に思いついた分け方は何ですか? 先に自分の案を持ってから読み進めてください。
実は、この20件には複数の「軸」が埋まっています。
- 飲み物か食べ物か(BLTサンドは食べ物、アイスティーは飲み物)
- 温かいか冷たいか(ホットコーヒーとかき氷)
- 価格帯(300円のクロワッサンと900円のパスタ)
- 季節・時間帯(夏季限定のかき氷、11時までのモーニングセット)
- 甘いか甘くないか(ブラウニーとカレーライス)
どの軸も間違いではありません。では、どれを選ぶべきでしょうか。
答えは「誰が、何のために探すか」で変わります。
- 暑い日に来た客: 「冷たいもの」でまとまっていると嬉しい
- 予算500円の学生: 価格帯順が嬉しい
- 発注担当の店員: 仕入れ先(ベーカリー・キッチン・ドリンク)別が嬉しい
同じ20件でも、探す人が違えば最適な分類は違う。分類に唯一の正解はないのです。
ちなみに「ソフトクリーム」は食べ物?デザート?冷たいもの? どの軸でも顔を出す困り者です。「モーニングセット」は飲み物と食べ物の両方を含みます。こういう「どちらにも入りそうな情報」に出会ったら、覚えておいてください。今日の午後、「こうもり問題」という名前でこの現象に再会します。
分類ができたら、各グループに見出し(グループ名)をつけます。見出しは「中身を抽象化した一言」です。「ホットコーヒー、カフェラテ、抹茶ラテ」に「温かい飲み物」とつければ、探す人は中身を読まずに素通りか深掘りかを判断できます。
コード例・実例
ビフォーアフターの例を示します(説明用に5件だけ抜粋。実習では20件全部で行います)。
【ビフォー(羅列)】 【アフター(軸: 提供温度×種別)】
・ホットコーヒー 400円 ■ 温かい飲み物
・かき氷 600円 ・ホットコーヒー 400円
・アイスティー 420円 ■ 冷たい飲み物
・BLTサンド 650円 ・アイスティー 420円
・カフェラテ(ホット)500円 ■ 冷たいデザート
・かき氷 600円(夏季限定)
■ 食事
・BLTサンド 650円
(・カフェラテ→温かい飲み物へ)
アフター側には「見出し」があるため、「冷たいもの」を探す人は2つの■だけ見ればよくなります。
読む量が減る=探しやすくなった、ということです。
ここがポイント
- 分類とは「軸」を決めること。軸の候補は複数あり、正解は1つではない
- どの軸が良いかは「誰が何のために探すか」で決まる(明日以降の「ペルソナ」の伏線)
- どのグループにも入りそうな情報が必ず出る。それは失敗ではなく、午後学ぶ「こうもり問題」の入り口
- グループには必ず「見出し」をつける。見出しは中身の抽象化
コラム
書店の棚づくりは、プロの分類人による真剣勝負です。同じ1冊の本、たとえば『料理の科学』は、「料理」の棚に置くか「科学読み物」の棚に置くかで売れ行きが変わります。カリスマ書店員と呼ばれる人たちは、出版社の決めたジャンルを無視して「今夜眠れなくなる本」のような独自の見出し(フェア棚)を作り、埋もれていた本をベストセラーにしてきました。分類の軸と見出しを変えるだけで、同じ情報(本)の価値が変わる。今日あなたがやるのは、まさにこれの縮小版です。
💬 AIに聞いてみよう
実習前後に、AIをこんなふうに使ってみましょう。
- 「Cafe MIGIのメニュー20件を貼り付けます。この20件を別の軸で分類すると、どんな分け方がありえますか?3パターン示してください」
- 「私はこの20件を『温かい飲み物・冷たい飲み物・食事・デザート』に分けました。この分類で困る客がいるとしたら、どんな人ですか?」
- 「ソフトクリームとモーニングセットの分類に迷っています。どちらのグループにも入りそうな情報は、実務ではどう扱うのが定石ですか?」
実習・演習(20分)
課題
本編1のCafe MIGIメニュー20件を、お客様が「探しやすい」メニュー表に作り変えてください。
- 分類する: 20件を3〜5グループに分ける。テキストエディタでもメモ帳でも紙でもよい
- 見出しをつける: 各グループに、中身が一言で伝わるグループ名をつける
- 根拠を書く: 「なぜこの軸で分けたか」を、想定するお客様の姿とセットで2〜3文で書く
- ビフォーアフターで示す: 整理前の羅列と、整理後の見出し付きリストを並べて提示する
- (余裕があれば)別の軸でもう1回: AIに「別の軸で分類すると?」と聞き、2つ目の分類を作って比べる
成果物
- 見出し付きの分類済みメニュー表(3〜5グループ、全20件を漏れなく配置)
- 分類の根拠メモ(どんな客を想定し、なぜその軸にしたか。2〜3文)
- ビフォーアフター比較(整理前リストと整理後リストの並記)
ヒント
- 迷ったらまず「飲み物/食べ物」の2つに大きく割り、そこから細分化すると進めやすい
- 3〜5グループという制約は意図的。2グループでは大雑把すぎ、10グループでは見出しを読む手間が増える
- 「どこにも入らない」「両方に入る」ものが出たら、無理に隠さず根拠メモに書き残す。午後の授業で回収される
- 全件をどれか1つのグループに入れること。「その他」を作ってもよいが、「その他」が5件を超えたら軸を疑う
- 手が止まったらAIへ。「この20件を貼るので、分類の軸の候補だけ5つ挙げてください(分類はしないで)」と頼むと、答えを見ずにヒントだけもらえる
- 完成したら、AIに客の役をやってもらう。「あなたは暑い日に来店した客です。私のメニュー表で冷たい飲み物をすぐ見つけられますか?」
まとめ(5分)
今回学んだことを一言でまとめると、**「情報は中身を変えなくても、軸を決めて分類し見出しをつけるだけで探しやすくなる。そして分類の正解は1つではない」**です。
- 散らかっている=構造がない状態。情報の正確さとは別問題
- 分類とは軸を決めること。軸は「誰が何のために探すか」で選ぶ
- 見出しは情報の抽象化。読む量を減らし、探しやすさを生む
- どちらにも入る情報(ソフトクリーム問題)は、午後の「こうもり問題」で理論化する
あなたはもう、IAの効果を「体験した人」です。次のセッション3では、この体験を理論で裏打ちします。
「そもそも情報とは何か」「なぜ並べ替えただけで価値が上がったのか」を、「価値」というキーワードで説明できるようになります。
🔄 振り返りチェック
- 自分が選んだ分類の軸を、「どんな客を想定したか」とセットで一文で言えますか?
- 同じ20件に対して、自分の分類以外の軸を2つ挙げられますか?
- 分類中に「どちらのグループにも入りそう」と迷った品目はどれでしたか? なぜ迷ったのか説明できますか?
補足資料
- 参考リンク:
- Richard Saul Wurman『それは「情報」ではない。』(情報を伝わる形にする技術の古典)
- 佐藤可士和『佐藤可士和の超整理術』(整理を仕事の武器にする実例集)
- 発展課題:
- 自宅の冷蔵庫の中身や自分のブックマークを20件書き出し、今日と同じ手順で分類してみる
- Cafe MIGIの20件を「店員(発注担当)が探しやすい軸」で分類し直し、客向けの分類との違いをAIと議論する
学習ガイド
想定される質問と回答例
| 質問 | ヒント |
|---|---|
| 分類の「正解」を教えてもらえませんか? | 唯一の正解はない。評価基準は「想定した探す人が、目的の情報に速くたどり着けるか」。根拠が言えればどの軸でも正解になりうる |
| グループ数はなぜ3〜5個なのですか? | 少なすぎると1グループが大きくなり探す量が減らない。多すぎると見出し自体を探すことになる。人が一目で把握できる数に収める経験則 |
| 「その他」グループを作ってもいいですか? | 作ってよい。ただし「その他」が肥大化したら軸の選択が実態に合っていないサイン。5件を超えたら軸を見直す |
| モーニングセットのようなセット品はどう扱えばいいですか? | 実務でも悩みどころ。「セットメニュー」という独立グループにする、代表面(食事)に置く等の選択肢がある。大事なのは「どう決めたか」を根拠として書き残すこと |
つまずきやすいポイント
| つまずきポイント | ヒント |
|---|---|
| 完璧な分類を探して手が止まる | 正解は1つではないので、まず60点でよいから分けきる。分けてから「この客だと探しにくいか?」と見直して直す方が早い(小さなPDCA) |
| どのグループにも入る品目(ソフトクリーム等)で悩み続ける | 迷うのは正常で、情報の多義性という本質的な現象。とりあえずどちらかに置き、迷った事実を根拠メモに書けばこの実習では十分。午後のこうもり問題で理論的に解決する |
| 分類はできたが根拠が「なんとなく」しか書けない | 「誰が」を先に決めると根拠が書ける。「暑い日の客なら温冷で分ける」のように、想定する人+目的→軸の順で文にする |
| 見出しが「グループA」「その他いろいろ」のように中身を表していない | 見出しだけ読んで中身が当てられるかをテストする。AIに見出しだけ見せて「何が入っていそうですか?」と聞くとずれが分かる |